一 被告人が二千五百円と千五百円の二口の金包を、何れの金包を何人に贈与するかを指示せず、同時に同場所で判示Aを通じBに交付したとしても、右Bに対する金品の交付行為をもつてしては未だ同人に対する贈賄行為の成立あるに止り、Cに対してはさらに情を知つた右Bが判示の金品をCに交付したときはじめてその実行行為があつたものというべきである。然らば被告人のBに対する贈賄行為と、Cに対する贈賄行為とは別個の贈賄行為であつて、原判決がこれを併合罪の関係にあるものとして処断したのは相当である。 二 旧刑訴法第四〇三条にいわゆる原判決の刑より重い刑を言渡すというのは判決主文における科刑を原判決にくらべて重くするということゝは当裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(れ)第一四八四号同年一〇月一日第二小法廷判決参照)そうして論旨引用の各判例もいずれもこれと同旨に出でたものである。されば原判決が第一審において有罪とせられた(イ)(ロ)の各贈賄事実の中(ロ)の事実を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても旧刑訴法第四〇三条に違脊しないこと明らかである。
一 公務員甲、乙に各別に贈賄する意見をもつて二口の金包を何人に贈与するかを指示せず同時に同場所でその旨を告げ甲に交付した場合と乙に対する贈賄罪の成立―右の場合乙が收賄したとき贈賄者に対する擬律 二 第一審において有罪とせられた二個の事実の中一個の事実を無罪としながら、なお第一審判決と同一の刑を科した場合と不利益変更の禁止
刑法198条,刑法197条,刑法45条前段,刑法54条1項前段,旧刑訴法403条
判旨
複数の公務員に対する贈賄において、一人(仲介者)に一括して金員を交付したとしても、他の公務員への贈賄は、事情を知った仲介者が現実に金員を交付した時点で実行行為が認められる。したがって、各公務員に対する贈賄罪は別個の実行行為に基づき成立し、併合罪の関係に立つ。
問題の所在(論点)
複数の公務員に対する贈賄において、一人の公務員に複数の金包を一括して交付した場合、他の公務員に対する贈賄の実行行為はいつ認められるか。また、それらの罪数関係はどうなるか。
規範
贈賄罪(刑法198条)の実行行為である「供与」は、相手方の受領によって成立する。複数の公務員を対象とする場合、一人の公務員(仲介者)にまとめて金員を交付しただけでは、その仲介者に対する贈賄が成立するにとどまる。他の公務員に対する贈賄の実行行為は、仲介者が事情を知った上で、当該他の公務員に対して現実に金員を交付した時に認められる。これらは別個の行為として併合罪(刑法45条前段)となる。
重要事実
被告人は、公務員BおよびCの両名に対し、判示の金員を贈賄しようと考えた。被告人は、2,500円と1,500円の二口の金包を準備したが、いずれの金包をいずれの者に贈るかを指示することなく、同時に同一場所において、第三者Aを通じてBに交付した。その後、事情を知ったBがCに対して金員を交付した。
あてはめ
被告人がBに二口の金包を交付した行為は、Bに対する贈賄の実行行為にはなるが、Cに対する贈賄の実行行為には直ちにはならない。Cに対する贈賄については、Bが事情を知った上で、受領した金員をさらにCに交付した時点ではじめて実行行為があったと評価できる。このように、Bに対する交付とCに対する交付は、時間的・場所的に別個の行為として行われているといえる。したがって、被告人のBに対する贈賄行為とCに対する贈賄行為は、一個の行為とは認められず、別個の独立した犯罪を構成する。
結論
Bに対する贈賄罪とCに対する贈賄罪は別個に成立し、併合罪として処断される。また、一部事実が不成立(無罪)となっても、主文の科刑が第一審より重くなければ不利益変更禁止の原則には反しない。
実務上の射程
贈賄の対象者が複数いる場合、一括して渡したとしても、それが仲介(伝達)を予定しているものであれば、各受領者ごとに別個の実行行為を認め、併合罪とすべきことを示した。罪数論において、行為の個数を「物理的な交付動作」だけでなく「法益侵害の対象(公務の廉潔性)への具体的到達」の観点から判断する際の参考となる。
事件番号: 昭和25(あ)2167 / 裁判年月日: 昭和26年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決文に「Aの手を通じて」との記載があっても、判文全体から被告人の単独犯行を認定したものと理解できる場合は、共同正犯の認定を欠く等の違法はない。 第1 事案の概要:被告人が贈賄罪に問われた事案において、第一審判決の事実摘示中に「Aの手を通じて」贈賄した旨の記載があった。弁護人は、この記載から被告人…