記録に徴するに被告人は本件殺人行為を為すに使用した銃剣を不法に所持していたものであるそして銃剣の不法所持罪はその所持を開始した特に成立するのであるから、本件殺人行為の行われる以前において本件不法所持罪は成立したわけであつて、たまたま被告人が本件殺人行為を為すに用いた銃剣が不法所持にかかるものであるとしても、殺人行為と不法所持行為とは別個の行為であり、別個の犯罪と見るべきであつて一個の行為と見ることはできない。従つて原審において被告人の判示行為に対し刑法第五四条第一項前段を適用せず同第四五条前段を適用したことは正当であり論旨は理由がない。
銃剣を不法に所持する者がその銃剣を使用して殺人を行つた場合の罪数
銃砲等所持禁止令1条,銃砲所持禁止令2条,刑法199条,刑法54条1項,刑法45条
判旨
不法に所持していた銃剣を殺人の凶器として使用した場合であっても、銃剣の不法所持罪は所持開始時に成立し、後の殺人行為とは別個の行為であるから、両罪は観念的競合(刑法54条1項前段)ではなく、併合罪(同45条前段)となる。
問題の所在(論点)
不法に所持していた物件を殺人の凶器として使用した場合、銃剣の不法所持罪と殺人罪は、刑法54条1項前段の「一個の行為が二個以上の罪名に触れるとき」に該当するか、それとも刑法45条前段の併合罪となるか。
規範
犯罪の罪数は「一個の行為」にあたるか否かによって決せられる。所持を継続する性質の罪においては、その所持を開始した時点で犯罪が成立し、その後の別罪の実行行為とは独立した別個の行為として評価される。したがって、先行する不法所持罪と、その所持にかかる物件を用いて行われた後発の犯罪とは、一個の行為とは認められず、併合罪の関係に立つ。
重要事実
被告人は、以前から銃剣を不法に所持していた。その後、被告人は心神耗弱の状態にありながらも、その不法所持していた銃剣を凶器として用い、殺人行為に及んだ。弁護人は、殺人に供した銃剣の所持は殺人行為と密接不可分であり、一個の行為として観念的競合を適用すべきであると主張した。
事件番号: 昭和27(あ)4271 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害致死罪と銃砲刀剣類等所持取締令違反(七首の不法携帯)は、観念的競合等の関係にはなく、併合罪の関係にある。 第1 事案の概要:被告人は七首(短刀)を不法に携帯し、それを用いて他人を負傷させ、死亡させた。この事実につき、傷害致死罪と、当時の銃砲刀剣類等所持取締令に基づく不法携帯の罪の罪数が問題とな…
あてはめ
銃剣の不法所持罪は、その所持を開始した時に成立するものである。本件においても、被告人が殺人行為をなす以前から不法所持罪は成立しており、殺人行為とは時間的・性質的に区別される。たとえ当該銃剣が殺人行為に用いられたとしても、所持行為と殺人行為を一個の行為と見ることはできない。したがって、両罪は別個の犯罪として併合罪の関係にあると解される。
結論
被告人の不法所持罪と殺人罪について刑法45条前段を適用し、併合罪とした原判断は正当である。
実務上の射程
継続犯である所持罪と、その所持物件を利用した他の犯罪との罪数関係を検討する際のリーディングケースである。凶器準備集合罪と殺人罪の関係など、実行行為に至る前の先行状態が犯罪化されている場合に、それらが独立した行為として評価され、併合罪となることを論じる際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和25(あ)1243 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件第一審判決は、弁護人の正当防衛の主張を排斥して「Aが拳銃を携えていたことは認め得るが、同人が拳銃を被告人の心臓部に突き付けたということは之を認め難く、従つて未だ急迫不正の侵害行為があつたとは謂い得ない」と判示し、原判決もこの認定を是認したのである。「被害者が拳銃を所持していたことを認め」たからとて、それは必ずしも所…
事件番号: 昭和25(あ)1288 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所持の罪において、一旦成立した所持が爾後存続するためには、その所持人が常にその物を所持することを意識している必要はない。 第1 事案の概要:被告人が、禁制品の所持を開始した後、進行性麻痺等の病状により意識を失った。弁護人は、意識を喪失した時点をもって所持の継続が否定されるべきであり、意識喪失後の所…
事件番号: 昭和24(れ)989 / 裁判年月日: 昭和24年9月27日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令の適用を受ける銃砲が單に彈丸發射の構造を有するのみでは足らず、更に彈丸發射の機能をも備えなければならないことは、論旨の云う通りであつて、同令施行規則第一條第一號にも「銃砲とは彈丸發射の機能を有する装藥銃砲を云う」と明らかに規定されているが、單に「銃砲」と云えばその機能のある銃砲を意味することが常識な…
事件番号: 昭和23(れ)345 / 裁判年月日: 昭和23年7月29日 / 結論: 破棄差戻
暴行又は傷害の故意のないということから、ただちに傷害事實を全面的に否定することはできないのであるから、原判決が「被告人の加害行爲が暴行又は傷害の故意を以てなされたと認むべき證據なし」との一點を把えて、結局犯罪の證明なき場合に該當するものとして公訴事實中傷害の點に對し無罪の言渡をしたのは理由不備の違法がある。