一 原判決には判事全員の契印の契印がないから判決書に刑事の契印を欠いた違法があるというのであるが、判決書は刑事これを作成し(旧刑訴六七条)裁判をした判事署名捺印すべきもの(同六八条)であるから合議裁判所における裁判書には合議に関与した判事全員においてこれに署名捺印すべきは当然であるが旧刑訴第七一条二項によれば書類には作成者が毎葉契印すべきことを規定するのみで合議裁判所における裁判書にはその裁判官全員の契印を要求していないのであるから、裁判をなした判事の一名がこれを作成し、契印すれば同条の要件を欠いたものということを得ない。(大正一三年(れ)第一一六七号同年九月六日大審院判決参照)要旨は理由がない。 二 原判決の確定した事実によれば被告人は当時酩酊のため乱暴していた判示AことBから絡まれて何らの理由なく頭部及び頬を殴打されその場は一旦別れたがやがて再び同人と顔を合わせたところ、更らに同人のため股部を足蹴にされたので、憤激の余りその顔面を殴打したところ、Bがなおもその懐中に手を差し入れ立ち向う態度を示したので、これは刃物で危害を加えようとするものと速断し機先を制して所携の西洋剃刀で同人の顔面を斬りつけたというものであるから、被告人の判示所為は喧嘩闘争のための加害行為に他ならぬものであつて、原判決が説示する如く過剩防衛とならない。
一 判決書に契印すべき裁判官 二 喧嘩闘争のための加害行為と過剩防衛
旧刑訴法67条,旧刑訴法71条,刑法36条
判旨
相手方の侵害行為に対し、憤激して機先を制する意図で加害行為に及んだ場合、それは喧嘩闘争の一環としての加害行為にすぎず、正当防衛(過剰防衛・誤想防衛含む)は成立しない。
問題の所在(論点)
相手方の不当な攻撃に対し、憤激して機先を制する目的で加害行為に及んだ場合、正当防衛(または誤想防衛・過剰防衛)の成否に影響する「防衛の意思」が認められるか。
規範
刑法36条の正当防衛が認められるためには、急迫不正の侵害に対して自己又は他人の権利を「防衛するため」の行為であることが必要である。相手方の攻撃に対して憤激し、単に機先を制して攻撃を加える意図でなされた行為は、防衛の意思を欠く喧嘩闘争のための加害行為にすぎず、過剰防衛や誤想防衛の成立を認める余地はない。
重要事実
被告人は、泥酔して乱暴していたBから理由なく殴打され、一旦は別れた。しかし、後に再会した際、Bに股部を蹴られたため、これに憤激してBの顔面を殴打した。さらに、Bが懐中に手を差し入れ立ち向かう態度を示したのに対し、刃物で危害を加えられると速断し、機先を制する目的で所持していた西洋剃刀でBの顔面を斬りつけた。
あてはめ
本件において、被告人はBからの執拗な暴行を受け、これに憤激した結果として顔面を殴打している。さらに、Bの挙動を見て刃物での攻撃を予期した際も、自らの身を守る受動的な防衛ではなく、機先を制して加害する意図で西洋剃刀を用いている。このような行為は、侵害を回避・防御するための止むを得ない行動ではなく、単なる喧嘩闘争における攻撃行為と評価される。したがって、防衛の意思に基づかない自発的な加害行為といえ、正当防衛等の要件を充たさない。
結論
被告人の行為は喧嘩闘争のための加害行為に他ならず、過剰防衛又は誤想防衛は成立しない。
実務上の射程
本判決は「防衛の意思」の欠如により正当防衛を否定する典型例(喧嘩闘争)を示している。答案上は、急迫不正の侵害が存在する場合であっても、攻撃者の意図が専ら加害にある場合や、機先を制する積極的加害意思が認められる場合には、正当防衛が否定される根拠として引用できる。
事件番号: 昭和23(れ)173 / 裁判年月日: 昭和23年6月5日 / 結論: 棄却
一 被告人がAから顔面を毆打されたのに對し、憤激の餘り日本刀を以て、同人の左下腹部を突差した行爲は正當防衞行爲と認め難い。 二 そもそも三審制を採用する裁判制度において上告審をもつて純然たる法律審とするか又は量刑不當若しくは事實誤認を理由とする上告を認めて事實審理の權限をも上告審に與えるかは、立法政策上の問題であり、從…