一 そして最高裁判所が正義を維持するため発動する職権破棄権は本件のような場合には当然にこれを保有するものというべきであるから本件特別抗告については刑訴法第四一一条の準用があるものと解するのが正当である。 二 被告人(控訴申立人)に対し、保釈決定原本に記載された制限住居とまつたく異つた制限住居を記載した謄本が送達せられ、被告人はそれを正しい謄本と信じて謄本記載の制限住居に居住していた場合に、控訴裁判所が原本記載の制限住居に宛てて控訴趣意書提出最終日通知書の送達を試み、それが不送達になつたのち、さらに同所に宛てて郵便に付する送達の方法をとり、右通知書は現実にも被告人に到達しなかつたが、同裁判所は控訴趣意書不提出の理由で控訴棄却の決定をしたのに対し、被告人から右事情を述べて異議の申立をしたにも拘らず、原決定が前記郵便に付する送達は有効であるとして異議申立を棄却したのは、刑訴規則第六三条の解釈を誤つた違法があり、刑訴第四一一条を準用して原決定を取り消されなければ著しく正義に反するものと認められる。
一 特別抗告について刑訴法第四一一条の準用があるか 二 保釈決定謄本と異つた制限住居に宛てた付郵便送達の効力 三 特別抗告において原決定を取り消さなければ着しく正義に反するものと認められる事例
刑訴法433条,刑訴法411条,刑訴法54条,刑訴規則63条
判旨
裁判所側の過失により保釈決定の謄本と原本の制限住居が相違し、被告人が謄本記載の住所に居住していた場合、原本記載の住所への書留郵便による送達(刑訴規則63条)は無効であり、これを前提とした控訴棄却決定は著しく正義に反するものとして職権破棄されるべきである。
問題の所在(論点)
裁判所側の過失により、被告人が原本と異なる住所に居住している場合において、原本記載の住所への書留郵便による送達(刑訴規則63条)をもって、控訴趣意書提出催告の送達があったとみなすことができるか。また、かかる過誤に基づく決定を職権で破棄できるか。
規範
刑事訴訟規則63条に基づく書留郵便による付随的送達の有効性は、被告人が適法な届出を怠ったことを前提とする。しかし、裁判所書記官の過失によって誤った内容の裁判書謄本が送達され、被告人がそれを正当なものと信じて行動していた場合には、形式的に同条の要件を充足するように見えても、実質的に送達の効力を認めることはできない。このような裁判所側の内部的な過誤に起因する手続上の不利益を被告人に帰せしめることは、著しく正義に反する(刑訴法411条の趣旨)。
事件番号: 昭和26(し)57 / 裁判年月日: 昭和26年10月6日 / 結論: 棄却
高等裁判所がした控訴棄却の決定に対し、自己又は代人の責に帰することができない事由により所定の期間内に異議の申立をすることができなかつた場合には、上訴権の回復の規定の準用がある。
重要事実
窃盗罪で懲役2年に処せられた被告人は、保釈中に控訴を提起した。保釈決定の原本では制限住居が「大阪市a区b町」となっていたが、書記官補の過失により作成された謄本では「大阪市a区e町」と誤記されていた。被告人は謄本を信じて誤記された住所に居住していた。控訴審裁判所は、原本記載の住所へ控訴趣意書の提出催告書を送付したが、宛先不明で戻ったため、刑訴規則63条に基づき原本記載の住所へ書留郵便による送達を行い、送達したものとみなして控訴趣意書不提出を理由に控訴棄却決定を下した。
あてはめ
被告人は、裁判所から交付された保釈決定謄本を正しいものと信じ、そこに記載された保証金を納付し、記載された制限住居に現に居住していた。この居住状況は、裁判所書記官の過失という裁判所内部の過誤に起因するものである。したがって、裁判所が原本記載の住所に宛てて書留郵便による送達を行ったとしても、被告人にとって現実の到達の機会はなく、同規則63条の要件を具備しない不適法なものと言わざるを得ない。結果として、控訴趣意書提出の催告が適法に告知されていない以上、不提出を理由とする控訴棄却決定には重大な手続上の違法がある。
結論
控訴趣意書提出の催告が被告人に適法に送達されていないため、控訴棄却決定は違法である。このような裁判所側の過誤を是正しないことは著しく正義に反するため、刑訴法411条を準用し、原決定及び控訴棄却決定を取り消す。
実務上の射程
裁判所側の手続的過失により被告人の防御権が侵害された場合、形式的な規則の適用(送達のみなし規定等)を排除し、職権破棄によって救済を図るべきとする実務上の指針。被告人の帰責事由がない場面での手続的正義の維持を重視する。
事件番号: 昭和25(し)61 / 裁判年月日: 昭和25年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特別抗告の理由として憲法違反を主張していても、その実質が原決定の訴訟手続に関する単なる法令違反にすぎない場合には、刑罰訴訟法上の適法な特別抗告の理由とは認められない。 第1 事案の概要:特別抗告人が、原決定の訴訟手続に関する不服を憲法違反と主張して特別抗告を申し立てた事案。なお、具体的な事案の詳細…
事件番号: 昭和27(し)30 / 裁判年月日: 昭和27年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官が合議体の構成員として判決に関与しながら、出張等の事故により記名押印できない場合、他の裁判官がその理由を付記して記名押印することは、判決の効力に影響を及ぼさない正当な手続である。 第1 事案の概要:本件判決において、合議体の構成員である裁判官小谷勝重は、判決の合議および成立に関与したが、判決…
事件番号: 昭和38(し)15 / 裁判年月日: 昭和38年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の提出遅延に関し、所定の期間内に提出がなかった場合に「上申書」と題する書面を提出したとしても、それを適法な控訴趣意書とみなすことはできず、提出遅延を正当化する「やむを得ない事情」も認められない。 第1 事案の概要:控訴人が、所定の提出期間内に控訴趣意書を提出しなかった。期間徒過後に「上申…
事件番号: 昭和28(し)67 / 裁判年月日: 昭和28年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の最終提出日直前に別罪で逮捕勾留されたために提出が遅れた場合であっても、刑訴法386条1項1号に基づく控訴棄却決定は、被告人の弁護権行使を不当に制限するものではなく、憲法13条等に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は控訴を提起したが、控訴趣意書の最終提出日の2日前に別罪により逮捕勾留…