一 控訴裁判所では、必ずしも常に事実の取調に被告人を立ち会わせ、被告人に弁論の機会を与えなければならないものということはない。 二 控訴審で事実の取調の一方法として証人の尋問をし、これを裁判の資料とするような場合には、憲法第三七条第二項の刑事被告人の権利保護のため特に被告人をこれに立ち会わせ、その証人を審問する機会を与えなければならないものと解するを相当とする。 三 本件記録によると、原審は第三回公判で証人二名を尋問し、しかもこれら証人の供述を事実認定の資料に供したこと、並びに、右証人尋問が行われた公判には被告人が出頭しておらず、且つその後においても特に被告人に対し、これら証人の供述の内容を知らせる手続を執らなかつたことは所論のとおりである。しかしながら、本件では、前記公判期日における証人の取調は、もともと弁護人の申請した証人の尋問であつて、各被告人にはいずれも右公判期日の召喚状が適法に送達され、且つ、弁護人は同公判期日に出頭して右各証人に対し、それぐ尋問もしていることが記録上明白であるから、被告人の前記憲法上の権利保護に充分な機会を与えたものといわなければならない。されば原審の手続には所論の違法があるとはいえない。
一 控訴審における事実の取調と被告人の立会権 二 控訴審における証人尋問と憲法第三七条第二項 三 控訴審の公判期日における証人尋問に被告人が立会しなくても違法でない一事例
刑訴法393条,刑訴法390条,刑訴法389条,刑訴法388条,刑訴法293条,刑訴法404条,刑訴法157条,憲法37条2項
判旨
控訴審において証人尋問等の事実の取調べを行う場合、被告人の権利保護のため証人審問の機会(憲法37条2項)を与える必要がある。もっとも、被告人に適法な召喚状が送達され、かつ弁護人が出頭して尋問を行っているならば、被告人が公判に不在であっても憲法上の権利保護の機会は十分に与えられたものと解される。
問題の所在(論点)
控訴審において被告人が欠席した状態で証人尋問が行われた場合、憲法37条2項(証人審問権)の保障に反するか。また、事実の取調べの結果に基づいて第一審判決を破棄自判する場合に、被告人の立会いや弁論の機会を常に与える必要があるか。
規範
控訴審は事後審であり、被告人の出頭は原則として不要である(刑訴法390条)。しかし、事実の取調べとして証人尋問を行う場合には、被告人の権利保護のため、特に被告人を立ち会わせ、証人を審問する機会(憲法37条2項)を与えなければならない。もっとも、被告人に対し適法に召喚状が送達されており、かつ弁護人が公判に出頭して証人尋問を行っている場合には、被告人が自らの意思で出頭しなかったとしても、審問の機会は十分に与えられたものと解すべきである。
重要事実
控訴審において、裁判所は事実の取調べを宣し、弁護人が申請した証人2名の尋問を実施した。被告人には各公判期日の召喚状が適法に送達されていたが、被告人は公判に出頭しなかった。他方で、被告人選任の弁護人は公判に出頭し、当該証人らに対して実際に尋問を行った。控訴裁判所は、これらの証言を事実認定の資料として第一審判決を破棄し、自ら判決を下した。これに対し、被告人側が被告人不在での証人尋問は憲法37条2項に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件では、証人尋問が行われた公判期日の召喚状が被告人に適法に送達されており、被告人には証人審問権を行使し得る「機会」が法的に保障されていた。また、被告人本人は欠席したものの、その補助者である弁護人が出頭し、実際に証人尋問を実施している。このように、被告人の防御を実質的に担当する弁護人が審問権を行使しており、かつ被告人自身も出頭可能な状態に置かれていた以上、憲法が保障する「審問する機会」を不当に奪ったとはいえない。
結論
控訴審における当該手続は憲法37条2項に違反しない。したがって、被告人不在の証人尋問の結果を事実認定の資料に供することは適法である。
実務上の射程
控訴審における証人尋問の適法性を判断する際のリーディングケースである。被告人本人の「立会い」がなくても、適法な召喚と弁護人による「尋問の実施」があれば、実質的な防御権の行使機会が確保されていると判断する枠組みを示している。答案上は、刑訴法390条の原則を確認しつつ、事実取調べが行われる際の例外的な手続保障の程度を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和28(あ)367 / 裁判年月日: 昭和28年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実審裁判所が、被告人からの証人尋問申請を必要がないと認めて却下することは、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、司法警察員に対する供述が強制に基づいたものであると主張し、第一審裁判所に対して証人尋問の申請を行った。しかし、第一審裁判所は、当該証人尋問の必要がないと判断して申請…