一 しかし、東京地方裁判所が昭和二四年一一月二日を以て被告人に対し本件起訴状謄本と同封して送達の手続をとつた弁護人の選任に関する通知書に対し、被告人は同年同月八日附で国選弁護人を頼みたい旨を同裁判所あてに回答していることは記録上(三丁、四丁)明らかであるし、また、被告人が翌九日小松川警察署の留置場から移監されて(記録第三五丁参照、東京拘置所に入所の際には既に本件起訴状の謄本を所持していたことは当裁判所の職権調査の結果明らかであるから、同月二日附の本件起訴状の謄本は同月八日までに被告人に交付されていることが推断できるのである しかのみならず、同年一二月一日の第一審裁判所の第一回公判期日に被告人及びその弁護人が出頭し、検事の起訴状の朗読を裁判長から被告事件について陳述することがあるかどうかを尋ねられた際にも、なおその後第一審判決の言渡しを受けるに至るまでのあいだにも、本件起訴状の謄本の送達がなかつたことについて異議を述べた形跡のないことは記録上明らかなところである。 二 されば、仮りに本件起訴状の謄本の送達が警視総監あてになされ所論のように小松川警察署長あてになされなかつたことが適式でないとしても被告人に対し豪も不利益を及ぼすものとはいえない。されば所論は明らかに刑訴第四〇五条に定める上告適法の事由にあたらないし、また同第四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとも認められない。
被告人が異議を述べない違法な起訴状謄本の送達と刑訴法第四一一条
刑訴法271条,刑訴法411条
判旨
起訴状謄本の送達手続に不備があったとしても、被告人が現実に謄本を領置して弁護人選任の回答を行い、公判期日で異議なく手続が進められた場合には、被告人に不利益はなく、判決を破棄すべき事由には当たらない。
問題の所在(論点)
起訴状謄本の送達が、規定の送達先(所論では警察署長)ではなく警視総監宛になされる等、送達手続に不備があった場合に、そのことが被告人に対する不利益として公判手続を無効とするか。
規範
起訴状謄本の送達(刑事訴訟法271条等)の手続に仮に不備があったとしても、その不備によって被告人の防御権の行使に実質的な不利益が生じていないと認められる場合には、その瑕疵は治癒され、判決を破棄すべき重大な法令違反や著しい正義に反する事由(刑訴法411条等)には該当しない。
重要事実
被告人は、裁判所から送付された起訴状謄本及び弁護人選任に関する通知に対し、国選弁護人を希望する旨を回答した。被告人は警察署から拘置所へ移監される際、既に本件起訴状の謄本を所持していた。その後、第一回公判期日において、検察官による起訴状朗読の後に陳述の機会を与えられたが、被告人及び弁護人は謄本の送達手続に関して何ら異議を述べず、第一審判決に至るまで争わなかった。
あてはめ
被告人は起訴状謄本の送達を受けて国選弁護人を希望しており、実際に謄本を手元に所持して内容を把握していたことが認められる。また、第一回公判期日において起訴状の朗読を聴取し、弁解の機会を与えられた際にも、送達手続の瑕疵について異議を述べていない。したがって、仮に送達の宛先指定等の手続が不適式であったとしても、被告人の防御の準備に支障を来した事実はなく、毫も不利益を及ぼしたものとはいえない。
結論
送達手続の不備は被告人の不利益とならないため、上告理由には当たらず、原判決を破棄すべき著しい正義に反する事由にも認められない。
実務上の射程
刑事手続の瑕疵に関する「不利益の有無」による瑕疵の治癒を認めた事例である。答案上は、手続違背があった場合でも、被告人が実質的に内容を了知し防御権を行使できていれば、重大な違反として無効にならないとする構成に活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1226 / 裁判年月日: 昭和27年5月31日 / 結論: 棄却
一 代用監獄である警視庁管下の警察署に在監する被告人に対して起訴状謄本を送達するにあたり、監獄の長たる右警察署長あてとすることなく警視総監あてとすることは違法である。 二 警視庁刑事部押送係において受領した起訴状謄本の伝達を受けた同庁管下警察署看守係巡査が、刑訴第二七一条第一項所定の期間内に同署に在監する被告人に対し、…
事件番号: 昭和57(し)27 / 裁判年月日: 昭和57年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護人による公訴棄却の申立ては、裁判所の職権発動を求める趣旨にすぎず、裁判所がこれに応じない旨の見解を示したとしても、独立した不服申立ての対象とはならない。これに対する不服は、終局裁判に対する上訴の中で主張すべきである。 第1 事案の概要:弁護人が、公訴提起後2か月以内に起訴状謄本が被告人に送達さ…