しかし新刑訴における控訴審は旧刑訴におけるそれが第一審手続の覆審であつたのとは異なり、第一審判決における一定の事実点並びに法律点に対する事後審査の手続である。されば新刑訴の規定においても控訴審の公判期日には被告人は必ずしも出頭することを要しないのであり(刑訴第三九〇条)は被告人のためにする弁論は弁護人でなければこれをすることができず(同第三八八条)、しかも検察官及び弁護人は控訴趣意書に基ずいて弁論しなければならない(同第三八九条)等と定められているのである。従つて被告人に対し被告事件について陳述する機会を与うべきことを定めた刑訴第二九一条第二項のごとき第一審公判に関する規定はその性質上控訴審の審判について準用せられないことは明白である。
控訴審の訴訟手続と被告人出頭の要否――刑訴法第二九一条第二項は控訴審の審判に準用されるか
刑訴法388条,刑訴法389条,刑訴法390条,刑訴法291条2項
判旨
控訴審は第一審判決に対する事後審査の性格を有するため、第一審の冒頭手続において被告人に陳述の機会を付与すべきことを定めた刑事訴訟法291条2項の規定は、控訴審には準用されない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法291条2項(被告人による権利の告知および陳述の機会)の規定は、事後審査制を採る控訴審の手続において準用されるか。
規範
現行の刑事訴訟法における控訴審は、第一審手続をやり直す覆審ではなく、第一審判決の事実認定および法令適用を審査する事後審査の性質を有する。この構造上、第一審公判における冒頭陳述や権利告知等の規定のうち、被告人の直接出頭を前提とする手続規定は、控訴審においてその性質上準用されない。
重要事実
被告人が控訴審の公判期日に出頭した事案において、控訴審裁判所が刑事訴訟法291条2項(被告人に対する被告事件についての陳述機会の付与)に定められた手続を履践しなかった。これに対し、弁護人が同規定の準用がないことを不服として、訴訟手続の法令違反を理由に上告を申し立てた。
あてはめ
控訴審では被告人の出頭は原則として不要であり(390条)、弁論は弁護人が控訴趣意書に基づいて行う(388条、389条)。このような控訴審の構造に照らせば、被告人に陳述の機会を与える291条2項の規定は性質上準用されない。被告人が出頭した場合であっても、それは裁判所の質問に対して任意に供述できるにとどまり、同条項に基づく義務的な手続を要するものではない。
結論
控訴審において被告人に陳述の機会を与えなかったとしても、刑事訴訟法291条2項は準用されないため、訴訟手続に違法はない。
実務上の射程
控訴審の事後審査的性格を根拠付ける重要判例。被告人の出頭義務がないこと(390条)や、弁護人による書面主義的弁論(389条)といった控訴審の特質を説明する際の基礎となる。第一審の諸規定の準用(404条)の限界を「性質による制限」として示す際に引用すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)4355 / 裁判年月日: 昭和27年12月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審で主張されず判断を経ていない事項は適法な上告理由とならず、また、刑事訴訟法392条2項は任意的な職権調査を規定したものにすぎない。 第1 事案の概要:被告人が上告審において、原審(控訴審)で主張していなかった事実を上告理由として主張した。また、被告人が公判廷において身体の拘束を受けていたか否…
事件番号: 昭和25(あ)290 / 裁判年月日: 昭和25年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審は第一審の事後審としての性格を有し、第一審で証拠とすることができた証拠は当然に控訴審でも証拠とすることができる。したがって、控訴審が第一審の認定事実を判断する際、第一審で採用済みの証拠について改めて取調べの手続を行う必要はない。 第1 事案の概要:被告人が自白の補強証拠の欠如や、証拠能力のな…
事件番号: 昭和25(あ)2121 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
所論の点はいずれも、原審において控訴趣意として主張されなかつた事項であり、また刑訴第三九二条二項は同条項所定の事由に関し控訴審に職権調査の義務を課したものではないから、原判決はこれらの点についてなんら判断を示していないのである。従つてこのような事項につき、単純に原判決の法令違反を主張することはもちろん、これを判例違反と…