被告人が賃借している家屋を不法に占拠し、古物商を営んでいる者に対し威力を用いその業務を妨害したときは、たといそれが右家屋の明渡を求めるためであつても、適法行為として罪とならないとすることはできない。
被告人が賃借している家屋を不法に占拠し古物商を営んでいる者に対し該家屋の明渡を求めるため威力を用い業務を防害した場合と犯罪の成否
刑法234条,刑法35条,刑法36条,刑法37条
判旨
賃借権等の私法上の権利が侵害されている場合であっても、国家機関の保護を求めるべきであり、自力で威力を用いて他人の営業を妨害する行為は「自救行為」として正当化されない。
問題の所在(論点)
権利侵害に対する対抗手段として、国家機関の手続を経ずに行う実力行使(いわゆる自救行為)が、刑法上の違法性阻却事由として認められるか。
規範
私法上の権利が侵害された場合であっても、原則として国家機関の手続による保護を求めるべきであり、法の認容しない実力行使(自力救済)による侵害の排除は、刑法上の違法性を阻却しない。
重要事実
被告人が賃借権を有する家屋を、被害者Aが占拠していた。被告人は、自らの賃借権を侵害されているとして、威力を用いてAの営業を妨害した。被告人はこの行為が自救行為であり無罪であると主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)4798 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: その他
労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない
あてはめ
被害者Aによる家屋の占拠が被告人の賃借権を侵害するものであったとしても、被告人はその侵害を排除するために国家機関の保護を求めるべきであった。それにもかかわらず、自ら威力を用いて被害者の営業を妨害したことは、法の認容しない実力行使に該当する。また、刑法36条(正当防衛)や37条(緊急避難)の要件を満たす事実も認められない。
結論
被告人の行為は自救行為として正当化されず、威力業務妨害罪等の成立が認められる。
実務上の射程
自力救済禁止の原則を刑事法上の観点から認めた重要判例である。答案上は、正当行為(刑法35条)の超法規的違法性阻却事由としての「自救行為」の成否を論じる際、原則として否定する根拠として引用する。例外的に許容される余地については、判決文からは不明であるが、一般に緊急事態かつ国家機関の援助を待てない特段の事情が必要とされる。
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。
事件番号: 昭和26(あ)3718 / 裁判年月日: 昭和28年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人らの行為が業務妨害罪および建造物不退去罪の構成要件に該当する場合、その目的や意図がいかなるものであっても、直ちに違法性が阻却されることはない。 第1 事案の概要:被告人らは、特定の目的(判決文からは詳細不明)を持って他者の管理する建造物に立ち入り、退去を求められたにもかかわらずこれに応じず、…