裁判官が公判廷で被告人に対し、公訴事実その他について詳細な尋問をしたからといつて、直ちに被告人に陳述を強要したものとはいえない。
公判延における裁判官の被告人尋問は陳述の強要となるか
刑訴法291条
判旨
法律が罰則を伴う禁止事項の細目規定を政令に委任している場合に、その政令がさらに省令等の下位規範に再委任することは、法律の委任の趣旨に反しない限り憲法上認められる。裁判官による詳細な被告人質問も、黙秘権の告知がなされ供述が強要されていない限り、憲法の供述拒否権に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 法律(食糧管理法)の委任に基づき政令がさらに省令(施行規則)へ犯罪構成要件の細目を委任することの合憲性。 2. 裁判官による被告人への詳細な訊問が、憲法の保障する供述拒否権および自白強要の禁止に抵触するか。
規範
1. 法律が特定の事項を政令に委任した場合、その政令がさらに省令等(施行規則)に対して詳細な規定を委任することは、直接法律の委任に基づくものとして憲法に違反しない。 2. 裁判官が公判廷で被告人に対し詳細な質問を行うことは、黙秘権および不利益な供述が証拠となる旨を告知し(刑訴法291条2項)、陳述を強要していない限り、憲法上の供述拒否権を侵害するものではない。
重要事実
被告人は、食糧管理法および同法施行規則に基づき禁止されていた米麦の買受け行為を行い、起訴された。弁護側は、①食糧管理法9条は政令にのみ委任したものであり、施行規則(省令)への再委任は法律の根拠を欠き無効であること、②第一審において裁判官が被告人に対し詳細な訊問を行ったことは、憲法上の供述拒否権に反することを理由に上告した。なお、第一審裁判官は訊問に際し、黙秘権の告知を適切に行っていた。
あてはめ
1. 食糧管理法施行規則29条は、直接的には施行令に基づいているが、大元の食糧管理法の委任の範囲内にある。先行する大法廷判決の趣旨に照らし、法律が罰則の前提となる構成要件を政令に委任し、さらに細目を規則に委任しても違憲ではない。 2. 第一審において、裁判官は検察官の起訴状朗読後、被告人に対して黙秘権があること、および陳述が不利益な証拠となり得ることを告知している。この手続を経ている以上、詳細な質問を行ったとしても供述を強要したとはいえず、被告人の自発的な陳述に基づくものと認められる。
結論
1. 食糧管理法施行規則29条は違憲無効ではなく、再委任による規定も有効である。 2. 本件における裁判官の訊問は、黙秘権告知がなされているため、憲法に違反しない。
実務上の射程
白地刑罰法規における再委任の可否および公判手続における裁判官の訊問の限界を示す射程を持つ。特に行政法規の委任については、法律の授権があれば下位規範への委任も広く認められる傾向を示す。答案上は、罪刑法定主義(憲法31条)の観点から「委任の具体性・明確性」を論じる際の補助的材料として活用できる。
事件番号: 昭和24新(れ)379 / 裁判年月日: 昭和26年12月5日 / 結論: 棄却
食糧管理法九条は主要食糧に関する移動等に関して、政令で必要な枠を定めることをこれに委任し、同時にこの枠の範囲内において必要な規定を定めることも命令(政令以外の命令)に委任する趣旨を有するものである。即ち、法律が直接に命令に委任したものであつて、ただその命令によつて定め得る事項の枠だけを政令に定めしめているに過ぎないので…