食糧管理法九条は主要食糧に関する移動等に関して、政令で必要な枠を定めることをこれに委任し、同時にこの枠の範囲内において必要な規定を定めることも命令(政令以外の命令)に委任する趣旨を有するものである。即ち、法律が直接に命令に委任したものであつて、ただその命令によつて定め得る事項の枠だけを政令に定めしめているに過ぎないのである。本件の場合において食糧管理法九条から枠を定める委任を受けた政令(食糧管理法施行令一一条)は、移動の制限という具体的な一定の枠を定め、命令(農林省令、食糧管理法施行規則二九条)は、この枠の範囲内において法律の委任に従つて移動に関する制限規定を設けたものである。それ故、所論のように、法律から委任を受けた政令が、自らその委任事務を尽さずしてこれをそのまま勝手に、命令に委任したという関係にあるのではない。従つて、食糧管理法施行令一一条及び同法施行規則二九条の違憲無効を主張する論旨は、理由なきものと言わねばならぬ。
一 食糧管理法施行規則第二九条と法律の委任 二 食糧管理法第九条と食糧管理法施行令第一一条及び同法施行規則第二九条との関係
食糧管理法9条,食糧管理法施行令11条,食糧管理法施行規則29条,憲法73条6号
判旨
法律が政令に事項の「枠」を定めることを委任し、その枠内で具体的な規定を省令等の命令に委任する構造は、法律が直接命令に委任したものと解され、再委任の禁止(憲法73条6号但書)には抵触しない。
問題の所在(論点)
法律が政令に枠組みの策定を委任し、その範囲内で省令に具体的規定を委任する形式は、憲法73条6号但書が禁止する「政令による白紙的な再委任」に該当し、違憲・無効となるか。
規範
法律が特定の事項について「政令の定めるところにより」命令で定めることができる旨を規定している場合、それは法律が直接に命令(省令等)へ委任したものであり、政令にはその命令で定め得る事項の「枠」を画定させる役割を付与したものと解する。このような構造は、政令が自らの委任事務を放棄して白紙的に再委任するものではなく、憲法73条6号但書にいう再委任の禁止には反しない。
重要事実
被告人は食糧管理法違反で起訴された。同法9条は、政府が主要食糧の移動等に関し「政令の定めるところにより」必要な命令をなすことができると規定していた。これを受け、食糧管理法施行令11条が「移動の制限」という具体的な枠組みを定め、さらに食糧管理法施行規則(省令)29条が移動制限に関する具体的な禁止規定を設けていた。被告人側は、この構造が法律から政令への委任を、政令がさらに省令へ勝手に再委任したものであり、憲法に違反し無効であると主張して上告した。
あてはめ
食糧管理法9条は、主要食糧の移動等に関し、政令で必要な枠を定めることを委任すると同時に、その枠内において必要な規定を命令(省令)に定めることを「法律が直接」委任している。本件施行令11条は「移動の制限」という具体的かつ一定の枠を定めており、本件施行規則29条はこの法律の委任に基づき、政令が画定した枠内で具体的な制限を設けたものである。したがって、政令が委任事務を尽くさずに勝手に命令へ再委任したものではなく、法規の委任関係として適法である。
結論
食糧管理法施行令11条および同法施行規則29条は、憲法73条6号但書に違反せず有効である。
実務上の射程
複雑な現代行政において、法律→政令(枠組み)→省令(細目)という多段階の委任構造がとられる際の合憲性判断基準として機能する。白紙的な再委任は禁止されるが、法律自体に「政令の定めるところにより(命令で定める)」といった文言があり、政令が基準(枠)を示している限り、委任の連鎖は許容されるという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和25(あ)125 / 裁判年月日: 昭和27年2月5日 / 結論: 棄却
裁判官が公判廷で被告人に対し、公訴事実その他について詳細な尋問をしたからといつて、直ちに被告人に陳述を強要したものとはいえない。