原審第二回公判において立会検事が被告人に対し附帯控訴をしたこと及び原判決が第一審で無罪になつた事実であるAに対し、被告人が人絹織物等二八〇疋を販売譲渡した点を有罪と判定したことはいずれも所論のとおりである。しかし同一事件においては、訴訟のいかなる段階においても唯一の危険があるのみであつて、そこには二重危険というものは存在しないのであるから下級審における無罪又は有罪判決に対し、検察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは、被告人を二重の危険に曝すものでもなく、従つてまた憲法第三九条に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでないことは当裁判所の判例(昭和二四年新(れ)第二二号同二五年九月二七日大法廷判決参照)とするところであるから本件において検事が控訴したこと及び第一審で無罪となつた事実を原判決が有罪としたことはいずれも憲法第三九条に違反するものであるということはできないのである。
附帯控訴及び第一審で無罪の事実を控訴審で有罪とすることと憲法第三九条
憲法39条,旧刑訴法399条
判旨
検察官の上訴により第一審の無罪判決が破棄され有罪となることは、同一の訴訟手続における危険の継続にすぎず、憲法39条の二重危険の禁止に違反しない。また、被告人の公判廷における自白は憲法38条3項の「自白」に含まれず、補強証拠がなくともそれのみで有罪判決の証拠とすることができる。
問題の所在(論点)
1. 検察官の上訴(附帯控訴)により第一審の無罪判決を有罪に変更することが、憲法39条の二重の危険の禁止に抵触するか。 2. 公判廷における被告人の自白が、憲法38条3項の補強証拠を必要とする「自白」に含まれるか。
規範
1. 憲法39条が禁止する「二重の危険」とは、確定判決後に同一事件について再度刑事責任を問うことを指す。同一事件の訴訟手続が継続している限り、いかなる段階でも「唯一の危険」があるのみであり、検察官の上訴によって下級審の無罪・有罪判決が争われることは二重の危険にあたらない。 2. 憲法38条3項が補強証拠を必要とする「自白」とは、公判廷外の自白を指す。裁判所の公判廷における自白は同条項の適用を受けず、自白のみによって事実を認定することができる。
事件番号: 昭和27(あ)4684 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白にかかる犯罪事実が架空のものでないことが保障される限り、自白の各部分につき逐一これを裏付ける補強証拠がなくても、憲法38条3項に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が関与したとされる取引について、その主体の認定を含む犯罪事実を自白により認定したところ、弁護人が憲法38条3項(自白の…
重要事実
被告人がAに対し人絹織物等を販売譲渡した事実等について、第一審は無罪とした。これに対し、検察官が原審(控訴審)において附帯控訴を申し立てたところ、原審は被告人の公判廷における自白を唯一の証拠として採用し、第一審で無罪であった事実を有罪と認定した。被告人側は、検察官の上訴が二重の危険にあたり憲法39条に違反すること、及び補強証拠のない自白のみでの有罪認定が憲法38条3項に違反することを理由に上告した。
あてはめ
1. 本件において、検察官が附帯控訴をなし、原審が第一審で無罪となった事実を改めて審理し有罪と判定したことは、同一事件の継続した手続内での判断である。したがって、被告人を二重の危険に曝すものではなく、憲法39条には違反しない。 2. 原判決が証拠とした被告人の自白は、原審の公判廷における供述である。公判廷での自白は、憲法38条3項が定める補強証拠を要する自白には含まれない。本件供述について誘導等による強要があった形跡も認められないため、当該自白を唯一の証拠として事実を認定した原審の判断は正当である。
結論
検察官の上訴により第一審の無罪を有罪に変更しても憲法39条に違反せず、また、公判廷での自白は補強証拠がなくても有罪の証拠とできるため、本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法における検察官上訴の合憲性、および自白の補強法則(憲法38条3項、刑訴法319条2項)の適用範囲を画定する重要判例である。答案上では、公判廷での自白に補強証拠が不要である点については、憲法上の要請としては不要だが、刑訴法319条2項は「公判廷での自白」も補強証拠を必要とする(通説・実務)ため、本判決の憲法判断と法律解釈を峻別して論じる必要がある。
事件番号: 昭和26(れ)1291 / 裁判年月日: 昭和26年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決裁判所の公判廷における被告人の自白については、憲法38条3項の「本人の自白」に含まれず、補強証拠を要しない。 第1 事案の概要:被告人が公判廷において自白したが、その自白を裏付ける補強証拠の存否またはその要否が争点となった事案。弁護人は、自白には補強証拠が必要であるとして上告を申し立てた。 第…
事件番号: 昭和27(あ)2903 / 裁判年月日: 昭和28年12月9日 / 結論: 棄却
憲法第三九条は、起訴状に公訴事実の記載が欠如していることを理由として公訴棄却の判決のなされた場合において、同一事件につき再度公訴を提起することを禁ずる趣旨を包含するものではない。
事件番号: 昭和25(あ)334 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
第一審の裁判官が職権を以て所論証人を喚問する旨の決定をするについて検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなかつたことは所論のとおりであるが、検察官及び被告人又は弁護人はこれに対し何等異議の申立をした形跡はなく、却つて、右証人尋問の際、検察官及び弁護人は自ら進んで右証人の尋問をもしていることが認められるのであるから、前記…
事件番号: 昭和26(れ)2165 / 裁判年月日: 昭和27年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項が規定する「本人の自白」には、公判廷における自白は含まれない。したがって、被告人が公判廷において自白している場合には、補強証拠がなくとも、当該自白のみに基づいて有罪とすることが認められる。 第1 事案の概要:被告人が銘仙の窃盗または横領等の罪に問われた事案において、原審(二審)は、被…