憲法第三九条は、起訴状に公訴事実の記載が欠如していることを理由として公訴棄却の判決のなされた場合において、同一事件につき再度公訴を提起することを禁ずる趣旨を包含するものではない。
起訴状の瑕疵を理由とする公訴棄却の判決後の再起訴と憲法第三九条
憲法39条,刑訴法338条4号
判旨
起訴状に公訴事実の記載が欠けていたことにより公訴棄却の判決がなされた場合、同一事件について再度公訴を提起することは憲法39条に違反しない。
問題の所在(論点)
形式的な不備により公訴棄却の判決がなされた後、同一事件について再度公訴を提起することが、憲法39条の禁ずる「重ねて刑事上の責任を問はれる」ことに該当するか。また、公訴棄却判決に一事不再理の効力(実体的確定力)が認められるか。
規範
憲法39条は、一事不再理の原則を定めるものであるが、形式的な不備を理由に公訴を棄却する判決が確定したにとどまる場合には、同一事件について再度公訴を提起することを禁ずる趣旨を包含するものではない。
重要事実
被告人Aに対する最初の公訴提起において、起訴状に被告人の氏名の記載はあるものの、公訴事実の記載が欠落していた。裁判所は、公訴提起の手続が規定に違反し無効であるとして、刑事訴訟法338条4号に基づき公訴棄却の判決を下した。その後、検察官が同一の事件について改めて適法な公訴を提起したため、被告人側がこれが憲法39条(二重処罰の禁止・一事不再理)に抵触し、刑訴法340条の趣旨にも反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和24(れ)59 / 裁判年月日: 昭和25年11月8日 / 結論: 棄却
原審第二回公判において立会検事が被告人に対し附帯控訴をしたこと及び原判決が第一審で無罪になつた事実であるAに対し、被告人が人絹織物等二八〇疋を販売譲渡した点を有罪と判定したことはいずれも所論のとおりである。しかし同一事件においては、訴訟のいかなる段階においても唯一の危険があるのみであつて、そこには二重危険というものは存…
あてはめ
本件における前訴の公訴棄却判決は、公訴事実の記載欠如という起訴状の形式的欠陥を理由とするものであり、被告人の有罪・無罪という実体的な判断に踏み込んだものではない。このような形式裁判によって訴訟が終了した場合には、実体的な審理が遂げられていない以上、被告人が「刑事上の責任を問われた」状態が完了したとはいえず、再度公訴を提起したとしても、憲法39条が保障する二重処罰の禁止の趣旨を害するものとは解されない。
結論
起訴状の記載不備による公訴棄却後の再起訴は、憲法39条に違反しない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公訴棄却判決には実体的確定力(一事不再理の効力)がないことを明示した判例である。刑訴法340条が「公訴棄却の決定」後の再起訴を制限しているのに対し、本件は「公訴棄却の判決」後の再起訴を扱っており、憲法上の二重処罰禁止の限界を画定する際の基礎的な法理として機能する。
事件番号: 昭和27(あ)1337 / 裁判年月日: 昭和28年11月24日 / 結論: 棄却
所論臨時物資需給調整法(昭和二一年法律第三二号以下旧法という)附則中「昭和二十三年四月一日」を「昭和二十四年四月一日」に改めた「臨時物資需給調整法の一部を改正する法律」(昭和二三年三月三一日法律第一六号、以下新法という)は、旧法の失効時期を延期して旧法の内容をそのまゝ新法の内容として存続せしめたものに外ならないのである…
事件番号: 昭和25(あ)2944 / 裁判年月日: 昭和27年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由として主張された憲法違反が、その実質において刑訴法411条の職権破棄事由を主張するものにすぎない場合には、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人側が上告を申し立て、その趣意書において憲法違反を主張したが、その具体的内容は判決文からは不明である。最高裁は、記録を精査した上で…
事件番号: 昭和27(あ)4684 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白にかかる犯罪事実が架空のものでないことが保障される限り、自白の各部分につき逐一これを裏付ける補強証拠がなくても、憲法38条3項に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が関与したとされる取引について、その主体の認定を含む犯罪事実を自白により認定したところ、弁護人が憲法38条3項(自白の…
事件番号: 昭和28(あ)4350 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決において、特定の差別待遇により被告人に不利益を与えたという実態が認められない場合、当該判決は憲法違反の瑕疵を欠き、上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が第一審判決における判断を憲法違反の差別待遇であるとして上告を申し立てた事案。弁護人は、第一審判決が特定の差別待遇により被告…