一 被告人を所論強盜罪の共同正犯に問擬したことは明白であるから、原判決が當該事實に對する擬律において刑法第二三六條と同時に同第六〇條を適用したことは明らかである。ただ後者を併せて掲記することを遺脱したに過ぎない。このように判決書に刑法總則の法條を遺脱しても判文全體よりその遺脱が明白な場合は所論のように擬律錯誤の違法ありというべきでない。 二 刑法第二四〇條後段の強盜殺人罪は強盜犯人が強盜をなす機會において他人を殺害することによりて成立する罪である。原判決の摘示した事實によれば、家人が騒ぎ立てたため他の共犯者が逃走したので被告人も逃走しようとしたところ同家表入口附近で被告人に追跡して來た被害者兩名の下腹部を日本刀で突刺し死に至らしめたというのである。即ち殺害の場所は同家表入口附近といつて屋内か屋外か判文上明でないが、強盜行爲が終了して別の機會に被害者兩名を殺害したものではなく、本件強盜の機會に殺害したことは明である。然らば原判決が刑法第二四〇條に問擬したのは正當であつて所論のような違法はない。論旨は理由がない。 三 所論日本刀及鞘が被告人Aの父右Bの所有物であつたことは記録上明かであるが、同時に右Bが生駒警察署に提出した始末書には「御署において然るべく處置して頂いて結構で御座います」という記載があつて右Bは所論日本刀の返還請求權を抛棄したものと認められる。然らば原判決が犯人以外のものの所有に屬しないとして沒収したのは正當であつて所論のような違法はない。
一 共同正犯につき刑法第六〇條の掲記を遺脱した判決と擬律錯誤 二 強盜の機會に爲した殺人の現場が屋内か屋外か明白でない場合と刑法第二四〇條 三 所有者の提出物に對する返還請求權の抛棄とその物の沒収の可否
刑法60條,刑法236條,刑法240條,刑法19條1號,刑法19條1號2項,舊刑訴法411條
判旨
強盗殺人罪(刑法240条後段)における殺害行為は、強盗の機会に行われることを要するが、強盗行為の終了後であっても、追跡してきた被害者を殺害した場合は強盗の機会に含まれる。また、第三者の所有物であっても、その者が返還請求権を放棄している場合には、犯人以外の者の所有に属しないものとして没収することができる。
問題の所在(論点)
1. 被告人が強盗現場から逃走しようとした際、追跡してきた被害者を殺害した行為が「強盗の機会」になされたといえるか(強盗殺人罪の成否)。 2. 第三者が所有権を有する物件について、当該第三者が返還請求を放棄している場合、没収することが可能か。
規範
1. 強盗殺人罪(刑法240条後段)は、強盗犯人が強盗をなす機会において他人を殺害することにより成立する。 2. 刑法19条1項2号所掲の「犯人以外の者に属しない物」には、当初は第三者の所有物であっても、その者が返還請求権を放棄した物も含まれる。
事件番号: 昭和24(れ)2681 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
強盗共犯の一人が強盗に着手した後家人に騒がれて逃走し追跡されているうち、巡査に発見され追い付かれて逮捕されようとした際逮捕を免れるため同巡査に切りつけ死に至らしめたときは、その強盗殺人の行為につき他の共犯も責任を負うべきである。
重要事実
被告人は共犯者と共に強盗を企てたが、家人が騒ぎ立てたため他の共犯者が逃走した。被告人も逃走しようとしたところ、同家表入口付近において、追跡してきた被害者両名の下腹部を日本刀で突き刺し、死亡させた。なお、殺害に使用された日本刀および鞘は被告人の父の所有物であったが、父は警察署に対し「然るべく処置して頂いて結構」との始末書を提出し、返還請求権を放棄していた。
あてはめ
1. 被告人が被害者を殺害した場所は家屋の入口付近であり、強盗行為自体が終了して別の機会に移行したとは認められない。強盗犯人が逃走を試みる過程で、追跡してきた被害者を殺害したことは、時間的・場所的に強盗行為と密接に関連しており、「強盗の機会」になされた殺害であると認められる。 2. 本件日本刀等は、形式的には被告人の父の所有に属するが、父が「然るべく処置してよい」旨の意思表示をしていることから、返還請求権を放棄したと認められる。したがって、実質的には「犯人以外の者に属しない物」に該当する。
結論
1. 強盗の機会における殺害として強盗殺人罪が成立する。 2. 第三者が返還請求権を放棄した物件の没収は適法である。
実務上の射程
強盗殺人罪における「強盗の機会」の判断基準として、事後の追跡場面への広がりを認める基本的射程を持つ。また、没収の対象に関する実務上の取扱いとして、第三者の権利放棄が「犯人以外の者に属しない」の認定に影響を与えることを示している。
事件番号: 昭和26(れ)703 / 裁判年月日: 昭和26年7月5日 / 結論: 棄却
強盗傷人罪が成立するには、強盗の機会に傷害の結果を発生せしめるを以て足りるものであつて、必ずしも強盗の手段である暴行又は脅迫により人を傷害し、又は傷害の意思を必要とするものではない。
事件番号: 昭和22(れ)204 / 裁判年月日: 昭和23年3月9日 / 結論: 棄却
一 刑訴應急措置法第一二條第一項本文は被告人の請求があつた場合に供述者又は作成者を訊問する機曾を被告人にあたえなければ所定の書類を證據にすることができないといつているのであつて公判期日において被告人に對し供述者又は作成者を訊問する權利のあることを告知してその訊問の請求をするかどうかを確めることは望ましいことには違いない…