一 昭和二二年政令第六二號第七條は教務不適格者が從前の地位勢力等を利用して退職當時の勤務先であつた學校等に對してこれを支配したり、其他何等かの影響を與へたりすることを防止するため右學校等の執務場所に出入することを禁じたものである。此趣旨から見て同條の「執務の場所」とは退職當時の勤務先であつた學校が既に使用して居た執務の場所を指すこと勿論で、退職當時執務の場所でなかつた處でも犯行當時執務の場所であればいいのである。 二 公訴事實の一部が無届となつた場合でも訴訟費用の全部を被告人に負擔させても違法ではない、かかる場合訴訟費用の一部を負擔させるか或は其全部を負擔させるかは原審の裁量の範圍に屬するものであるから原判決に所論の様な違法はない。 三 原判決は被告人が判示第一に記載される行爲をしたことによりあらたに教職に就いたものとしてこれに判示政令第六二號第三條第二項を適用して居るのである。しかし同條法文の「あらたに」「就く」等の語によつて見れば同條は追放によつて教職を一旦去つた者(或は初めから教職に就て居なかつた者)が追放後あらたに教職に就く場合を規定して居るものと見るべきであろう。これを廣く解するとしても、追放後殘籍以外の新な教職上の事務を爲した場合を指すものというべく、追放後未だ教職を去らない者が、其直後殘務整理又は事務引続の爲め己むを得ず爲した行爲の如きは含まぬものと解するを相當とする。 四 原審は被告人が何時教職を退いたかを判示して居ないし原審舉止の證據を見ても明らかでない、原審は或は追放を受けた者は其れにより直ちに教職を失うものであるとの趣旨に出たのかも知れない、しかし所謂公職追放の場合においては覺書該當者はその追放指定の日より二一日目に當然失職する趣旨の規定が設けられて居るのに反し、教職追放に付てはかような規定はなく却つて昭和二二年文部外八省令第一號(昭和二一年五月一日)第二條によれば同第二條の私立學校の教員其の他職員又は教育に關する法人の役員の職にある者が教職不適格として指定を受けたときは文部大臣がこれを解職又は解任することができると規定していることに徴すれば、教職員については當然失職となるものではなく、本人の辭職又は右の解職又は辭任によつて始めて職を失うものと解するのが相當である。 五 原審が「あらたに教職に就いたものである」といつているのは或は殘務整理等の仕事でなく新な行爲をしたとの意であるかもしれないけれ共原判文によつては殘務であるか新な行爲であるかわからないのみならず舉示の證據を見ても明かでない、そして原審は被告人が追放の通知を受領した日の翌日からの行爲を罰しているのであるから、其中には殘務整理又は事務引続の爲必要な行爲もあるかも知れない、むしろあつたらうと想像する方が自然であらう、されば原審は本件被告人の行爲は被告人が一旦教職を退いた後あらたに爲した行爲であるか否か又若し退かない間の行爲であるならば殘務等の爲已も得ざるに出でた行爲であるか否かを判斷しなければならない此の點において原審は理由不備の違法あるものというの外ない。
一 昭和二二年政令第六二號第七條にいわゆる「執務の場所」の意義 二 公訴事實の一部が無罪となつた場合に訴訟費用の全部を被告人に負擔させることの可否 三 昭和二二年政令第六二號第三條第二項所定の「あらたに教職に就く」の意義と追放後己むを得ず爲した行爲 四 教職不適格として指定を受けた者が當然失職する趣旨の規定の有無 五 被告人の行爲が一旦教職を退いた後新たに爲したものか殘務であるか等について判斷を示さない判決の違法
昭和22年政令62號7條,昭和22年政令第62號3條2項,昭和22年政令62號3條,昭和22年政令62號3條2項,舊刑訴法237條2項,舊刑訴法410條20號
判旨
教職追放された者が「あらたに教職に就く」ことの禁止(昭和22年政令第62号3条2項)は、一旦教職を去った後に就職する場合や、追放後に残務整理等を超えた新たな事務を行う場合を指す。追放の指定を受けただけでは当然に失職せず、解職・辞職までの間のやむを得ない残務整理や事務引継行為は、同条の禁止する行為には含まれない。
事件番号: 昭和23(れ)1297 / 裁判年月日: 昭和23年11月4日 / 結論: 破棄差戻
一 昭和二二年政令第六二號(教職員の除去、就職禁止等に關する政令)第七條は單なる注意的、訓示的の警戒規定ではなく、之に對する違反行爲は、昭和二一年勅令第三一一號(聯合國占領軍の占領目的に有害な行爲に對する處罰等に關する勅令)第四條第一項に依り處罰されるものである。 二 昭和二一年勅令第三一一號の罰則を以て常に昭和二二年…
問題の所在(論点)
1. 追放指定を受けた教職員が、失職前に行う残務整理等の行為は、政令3条2項にいう「あらたに教職に就く」行為に該当するか。 2. 教職追放の効果として、指定により当然に失職するか。 3. 同政令7条にいう「執務の場所」の意義と、開校式出席のための出入が「正当の事由」に基づくといえるか。
規範
1. 昭和22年政令第62号3条2項の「あらたに教職に就く」とは、追放により一旦教職を去った者(または当初から未就職の者)が追放後に職に就くこと、あるいは広く解しても追放後に残務以外の新たな教職上の事務を行うことを指す。 2. 追放指定を受けた者は、当然に失職するのではなく、本人の辞職または主務大臣による解職・解任によって初めて職を失う。したがって、職を失う前に行う「残務整理または事務引継のためにやむを得ずなされた行為」は、同条の禁止行為には該当しない。
重要事実
被告人は教職不適格者として追放指定を受けた。原審は、被告人が追放通知を受領した翌日以降に学校事務等を行ったことをもって、同政令3条2項にいう「あらたに教職に就いた」ものと認定し、有罪とした。また、被告人が学校の開校式に出席した行為等について、同政令7条の禁止する「執務の場所」への出入にあたると判断した。しかし、被告人がいつ教職を退いたか、また当該行為が単なる残務整理であったか否かについては具体的に審理されていなかった。
あてはめ
1. 罪刑法定主義の観点からも、追放に関する事項は厳格に解釈すべきである。残務整理の猶予も認められないと解するのは、公職追放との権衡を失し過酷に過ぎる。 2. 教職員については、公職追放のような当然失職の規定がなく、文部大臣による解職等の規定があるに留まるため、指定即失職とは解されない。 3. 原審は、被告人の行為が一旦退職した後の新たな行為か、あるいは退職前であっても残務整理の範囲内かを判断しておらず、理由不備がある。 4. 執務の場所への出入については、退職当時の場所だけでなく犯行時に学校が使用している場所も含まれるが、単なる開校式出席は「正当の事由」にはあたらない。
結論
原判決を破棄し、差し戻す。被告人の行為が「一旦教職を退いた後の行為」か、あるいは「退職前の残務整理としてやむを得ない行為」であるかを審理・判断すべきである。
実務上の射程
行政上の不利益処分(追放等)に伴う禁止規定の解釈において、文言の厳格解釈と、事務引継等の現実的な必要性による例外(正当な残務整理)を認めた事例。また、行政処分による資格喪失が「当然失職」か「解職を要するか」の区別を法令の規定振りに即して判断する際の手法として参考になる。
事件番号: 昭和24(れ)1480 / 裁判年月日: 昭和26年7月20日 / 結論: 破棄自判
一 昭和二〇年一二月連合国軍最高司令官総司令部参謀副官発第三号日本政府に対する覚書、神道指令の4は「日本政府、県及び市町村の凡ての官公吏、属官、雇員並にあらゆる教師、教育職員、市民及び居住者は本指令の一切の規定の字句並に精神を遵守することに対し個人的責任を負うべきものである」と規定しているのであるが、それは右に規定した…
事件番号: 昭和24(れ)356 / 裁判年月日: 昭和24年3月24日 / 結論: 破棄差戻
原判決摘示の被告人の供述部分は、寧ろ被告人が假指定の事實を知らなかつた有力なる反證と見るのが相當である。しかるに原判決が被告人のその前後の供述部分を無視抹殺して全然反對の立證趣旨にこれを供したのは實驗則に反して事實を認定した違法があるものといわざるを得ない。
事件番号: 昭和24(れ)2776 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
仮りに、古い被告人の私物であつて、朝鮮向の貨物でないから沒収をしたのが違法であるとしても、右は判示多数の沒収品中の一点に過ぎないから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認め難い。
事件番号: 昭和25(あ)84 / 裁判年月日: 昭和25年2月21日 / 結論: 棄却
原判決が昭和二二年勅令第一號第一五条にいう「政治上の活動」の意義について、最高裁判所の判例に示された解釈に從つて被告人の行為を判断しているときは、たとえ判例の適用あやまつたとしても刑訴法第四〇五条第二號にいわゆる「判例と相反する判断をした」ということはできない。