刑法第二四一條前段の強盗強姦罪は、強盗犯人が強盗の機會において婦女を強姦することをその要件とすること所論のとおりである。しかるに、原判決は被告人が判示Aを強姦する際強盗の犯意があつた事實は認定しなかつた許りでなく、却つて同女を強姦し終つた後強盗の犯意を生じ同女からその所持金十五圓を強奪したという事實を認定しているのである。しからば、被告人の判示所爲は右強盗強姦罪に該當しないことは明らかである。尤もこの點について原判決は「被告人の行爲は婦女を強姦し、その畏怖に乘じて金品を強取したもので、犯情の點において他人を畏怖させて金品を強取したものがその畏怖に乘じ婦女を強姦した場合といさゝかも異らないから強盗強姦罪を構成する」と説明するのであるが、それは原審の誤れる見解と言わねばならぬ。けだし被告人の行爲が強盗強姦罪を構成するかどうかということゝ、その犯情が強盗強姦罪と同じであるということゝは自ら別の事柄である。原審が婦女を強姦した後その畏怖に乘じて更らに同女から金員迄も強奪した被告人の本件犯行を、その情状において強盗犯人が婦女を強姦した場合といさゝかも異らないとするものであれば、その點は被告人に對する量刑上十分に考慮すれば足りるのである。次に又、強盗強姦罪は強盗罪と強姦罪との結合犯であるから、強姦罪と強盗罪に該當する行爲とが同一機會に行はれさえすれば強盗強姦罪を構成するというのであれば、それは結合犯の概念を正解しないものと言うの外なく到底採用に値しない。
婦女を強姦した者が同女の畏怖に乘じて金品を強取した場合の擬律
刑法177條,刑法45條前段,刑法236條,刑法241條
判旨
強盗強姦罪(旧刑法241条)が成立するためには、強盗犯人が強盗の機会に強姦することが必要であり、強姦後に初めて強盗の犯意を生じ金員を強奪した場合には同罪は成立しない。
問題の所在(論点)
強姦行為の終了後に初めて強盗の犯意が生じ、財物を強取した場合に、強盗強姦罪(現・強制性交等強盗罪)が成立するか。結合犯としての成立要件と「強盗の機会」の意義が問題となる。
規範
強盗強姦罪(現・強制性交等強盗罪、刑法241条)は、強盗と強姦が結合した結合犯である。その成立には、強盗犯人が強盗の機会において強姦行為に及ぶことを要し、単に両罪が同一機会に行われたという事実や、犯情が類似しているという点のみをもって同罪の成立を認めることはできない。
重要事実
被告人は、被害者Aを強姦したが、その際には強盗の犯意は認められなかった。被告人は強姦を終えた後、初めて強盗の犯意を生じ、強姦による被害者の畏怖状態に乗じて所持金15円を強奪した。原審は、この行為が強盗犯人が強姦した場合と犯情において異ならないとして強盗強姦罪の成立を認めた。
あてはめ
強盗強姦罪は強盗犯人がその機会に強姦を行うことを要件とする結合犯である。本件において、被告人は強姦の時点では強盗の犯意を有しておらず、強姦終了後に初めて強盗の犯意を生じている。原審は、強姦後の畏怖に乗じた強奪が強盗強姦罪と犯情において異ならないとするが、罪刑法定主義の観点から、犯情の類似性と罪の成否は別個の事柄である。強姦後に強盗の犯意が生じたに過ぎない以上、結合犯としての強盗強姦罪を構成すると解することは、結合犯の概念を誤解したものである。
結論
被告人の所為は強盗強姦罪には該当せず、強姦罪と強盗罪の併合罪(強姦罪については告訴取消しの有無を検討すべき)となる。したがって、強盗強姦罪の成立を認めた原判決には法令違反がある。
実務上の射程
結合犯の成立順序(強盗から強姦へ)を厳格に求めた判例である。現行法下の強制性交等強盗罪(241条後段)においても、強盗の機会における性的行為という構造は維持されており、強姦後に初めて強盗の犯意が生じた場合には併合罪として処理すべきとする答案構成の根拠となる。
事件番号: 昭和24(れ)1328 / 裁判年月日: 昭和24年8月18日 / 結論: 棄却
強盜強姦罪は強盜たる身分を有するものが、強姦をする犯罪であり、個人の専屬的法益(婦女の性的自由)を侵害する罪である。從つてその犯罪の個數は各被害者の數によつて算定さるべきものである。だから被告人等は共謀して三個の強盜強姦罪を犯したものであつて、併合罪として取扱うを當然とする。
事件番号: 昭和32(あ)3259 / 裁判年月日: 昭和33年6月24日 / 結論: 棄却
婦女を強姦した上所持品を強取しようと決意し、まずその前頸部を扼して失神させ被害者の自転車を隠す等の行為に出で、強姦の点は未遂に終つた後即時犯行の発覚をおそれて殺意を生じ殺害した場合は、刑法第二四〇条後段、第二四一条前段、第二四三条、第五四条第一項前段を適用すべきものである
事件番号: 昭和23(れ)1181 / 裁判年月日: 昭和23年12月16日 / 結論: 棄却
本件は、單純な強姦罪ではなく、強盜強姦罪という結合罪として處罰されたものである。從つて強姦被害者の告訴の提起は、本件の場合に訴追の必要條件となるものではないから、告訴なくしてなされた本件の處罰は適法である。