共犯者の中一人が自己の意思に因り犯行を中止しても、他の者の犯行を阻止せず放任し、その者が犯行を遂げた場合は、前者に対し中止未遂の規定な適用することはできない。
共犯者の中一人は自己の意思に因り犯行を中止し他の者が犯行の目的を遂げた場合中止未遂の規定の適用の有無
刑法60条,刑法43条
判旨
共謀共同正犯の一人が自己の意思で実行を中止しても、他の共犯者の実行行為を阻止せず結果が発生した場合には、中止犯の規定は適用されない。被告人が共犯者による財物強取を放任した以上、被告人自身も強盗既遂の罪責を負うべきである。
問題の所在(論点)
数人の共謀による実行の着手後、その一部の者が自己の意思により犯罪を中止したが、他の者が実行を継続して結果を発生させた場合、中止した者に中止犯(刑法43条但書)が成立するか。
規範
共同正犯の一人が任意に自己の実行行為を中止しても、中止犯(刑法43条但書)が認められるためには、単に自己の離脱のみならず、他の共犯者の実行行為を阻止して結果の発生を防止するなどの積極的措置を講じることを要する。他の共犯者が実行を継続し結果が発生した場合には、既遂罪の共同正犯としての責任を免れない。
重要事実
被告人は共犯者Bと強盗を共謀し、Bが被害者Aに包丁を突きつけて脅迫し、被告人もジャックナイフを手にして家財を物色するなどの強盗行為に及んだ。その後、被告人はAの妻が差し出した現金900円を受け取ることを断念して立ち去ったが、共犯者Bがそのまま金員を強取することを阻止せず、これを放任した。Bは結果として強盗を完遂した。
あてはめ
被告人は、自ら金員の受領を断念して現場を去っており、自己の行為については任意の中止があったといえる。しかし、本件は共犯者Bとの共謀に基づく強盗であり、被告人が現場を去る際、Bによる財物強取行為を阻止する措置を講じず、これを漫然と放任している。共同正犯は互いの行為を利用・補充し合って犯罪を遂行するものであるから、一部の者が離脱しても他の者が結果を発生させた以上、全体として既遂の結果について因果関係を遮断したとはいえない。
結論
被告人は中止犯として論ずることはできず、共犯者Bによって遂行された強盗既遂の罪責を負う。
実務上の射程
共謀共同正犯における中止犯の成立要件として「結果発生の防止」が必要であることを示した射程の長い判例である。答案上は、実行の着手後の離脱において、単なる「離脱の意思表明」や「立ち去り」だけでは足りず、他の共犯者の行為を阻止する等して当初の共謀に基づく因果関係を物理的・心理的に遮断する必要があることを論じる際に引用する。
事件番号: 昭和24(れ)781 / 裁判年月日: 昭和24年9月29日 / 結論: 棄却
強盜の共謀者がたとい自から被害者に對し暴行脅迫を加えなかつたとしても他の共謀者の暴行脅迫行爲を利用し強盜の意思を實現した以上、なお強盜罪の共同正犯の責を兔れ得ないものであることは多言を要しない。