一 所論水産物統制令及び右勅令を廃止した政令は、いずれも食品緊急措置令(昭和二一年二月一七日勅令第八六号)第九条の委任に基いて制定された法令である。そして、右食糧緊急措置令は、九憲法第八条第一項の規定によるいわゆる緊急勅令であつて議会の承諾を得て法律と同一の効力を有するに至つたものであり、かかる緊急勅令の効力が日本国憲法の施行によつて何らの影響を受くべきものでないことは当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第二七四九号同二五年四月一三日第一小法廷判決)とするところである。そして、右の緊急勅令及びその委任に基き制定された勅令勅令並びに政令は所論日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の効力等に関する法律第一条に定める命令に包含されるものではないから、所論のようにその効力を失つたものではない。 二 原判決の確定した昭和二二年一二月四日頃における押麦の売買の基準価格は昭和二二年一一月一日物価庁告示第九六一号によつて規定されたものであり、その告示による統制価格の指定は物価統制令第四条の規定に基くものであつて食糧管理法に基き指定された価格は存しないのであるから、本件価格違反行為は物価統制令違反の問題であつて、所論のごとく食糧管理法違反を以て論ずべきでない。 三 物価統制令第一一条が、「契約ヲ為スコトガ自己ノ業務ニ属スル」場合を「営利ノ目的ヲ以テ契約ヲ為ス」場合と同様処罰する所以は両者共に多量の物について何回も反覆して行われる傾向があり物価秩序を紊す危険が多いからである。この趣旨に鑑みれば同条但書にいわゆる「当該契約ヲ為スコトガ自己ノ業務ニ属スル」とは自己本来の業務として該契約をする場合だけに限らず自己本来の業務の遂行上必要であるつて通常付随的に行われる契約のようなものを包含すると解すべきである。そして本件において、被告人が原判決判示の押麦三〇俵(一俵五〇瓩入)を買受ける契約をしたのは、被告人がA紡績株式会社の用度係として、同会社工場寄宿舎の工員の食料に供するためであつたというのであるが現今紡績業を営む会社が工員の為め寄宿舎を設けることは殆ど必要を欠くべからざるものであるからその寄宿舎に収容する工員の食料を購入することはその紡績業を遂行するため必要であつて通常これに付随して行われるものと解するを相当とする。
一 昭和二一年二月食糧緊急措置令の効力と昭和二二年法律第七二号第一条にいわゆる「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令」 二 物価庁告示で指定された統制額を超えて押麦を買い入れた所為の擬律 三 紡績会社がその工員の食糧を購入することと物価統制令第一一条但書
昭和21年2月17日勅令86号食糧措置令9条,昭和22年法律72号1条(日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する),物価統制令3条,物価統制令4条,物価統制令11条,昭和22年11月1日物価庁告示961号,食糧管理法(昭和22年法律247号による改正前のもの)10条,食糧管理法施行令(昭和22年政令330号による改正前のもの)12条
判旨
物価統制令11条但書にいう「当該契約を為すことが自己の業務に属する」場合とは、本来の業務そのものだけでなく、業務遂行上必要で通常付随して行われる契約も含まれる。したがって、紡績会社が寄宿舎工員の食糧を購入する行為は、同条の「業務に属する」ものとして統制価格違反の処罰対象となる。
問題の所在(論点)
物価統制令上の処罰対象から除外される「消費者」に当たらないとされる要件である、同令11条但書の「当該契約を為すことが自己の業務に属する」の意義。特に、主たる事業に付随する食糧購入行為がこれに含まれるか。
規範
物価統制令11条但書が、営利目的がなくとも「自己の業務に属する」場合に処罰を認める趣旨は、多量の物が反復継続して取引されることで物価秩序を乱す危険が大きいためである。したがって、「当該契約を為すことが自己の業務に属する」とは、自己本来の業務として契約する場合のみならず、本来の業務を遂行する上で必要であり、かつ通常付随的に行われる契約をも包含すると解すべきである。この場合、営利の目的の有無は問わない。
重要事実
被告人は紡績会社の用度係として勤務していた。被告人は、同会社の工場寄宿舎に収容されている工員に供する食糧とするため、計30俵(1,500kg)の押麦を統制価格を超える価格で買い受ける契約を締結した。被告人側は、当該買受は福利厚生目的であり、営利目的でも業務でもないため同令11条但書の消費者除外規定の趣旨に照らし処罰されないと主張した。
あてはめ
紡績業を営む会社にとって、工員のために寄宿舎を設けることは業務運営上、必要不可欠な要素である。そうであるならば、その寄宿舎に収容する工員のための食糧を購入する行為は、紡績業という本来の業務を遂行するために必要であり、かつこれに通常付随して行われるものといえる。したがって、用度係による押麦の買受契約は、会社の「業務に属する」ものと解するのが相当である。また、業務に属する以上、営利目的の有無を問わず同条が適用される。
結論
被告人が紡績会社の用度係として工員用食糧を買い受けた行為は、会社の「業務に属する」ものといえる。したがって、統制価格を超過した当該契約は物価統制令に違反し、有罪となる。
実務上の射程
行政刑法における「業務」の概念を、本来の主目的たる事務だけでなく、その遂行に通常付随する事務まで広く捉える判断枠組みを示した。現代の経済事犯や行政法規の罰則規定において、業務性の有無が争点となる際の解釈指針として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1974 / 裁判年月日: 昭和27年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物品購入の代理や媒介による斡旋等の業務に従事する者が、所属団体の利益を図る目的で、法定の除外事由がないにもかかわらず物資の買受契約を締結する行為は、物資の統制規則に違反する罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人はA協同組合同盟の組織事業局次長であり、同所属団体のための物品購入の代理・媒介・斡旋等…
事件番号: 昭和26(れ)1504 / 裁判年月日: 昭和26年12月25日 / 結論: 棄却
右追公判請求書によれば検察官はA等において本件帆布を前記代金にて販売したときに横領行為が完成したものとして公訴を提起した趣旨と認められる。されば、横領罪を構成するものとして起訴された被告人A等の右販売行為が他面において物価統制令に違反するのであるから、刑法五四一条一項前段にいう一個の行為が他の罪名に触れる場合に当り、公…