裁判長が證據調を終り被告人に對し意見辯解の旨を問い且つ利益な證據があれば提出できる旨を告げ之れに對し被告人は無いと答えたときは裁判長からことさらに事實並びに證據調を終つた旨を告げなくとも特に檢事の發言を禁じない限り檢事は意見陳述の機會を與えられたものと解し得る。
公判調書に證據調終了後裁判長が檢事に對し特に意見陳述の機會を與えた旨の記載がない場合
舊刑訴法349條1項,舊刑訴法60條
判旨
裁判長が事実及び証拠調べの終了を明示せず、検察官の論告も記録にない場合であっても、証拠調べを終え、被告人に陳述の機会を付与した等の事情があれば、検察官に意見陳述の機会を与えたものと解することができる。
問題の所在(論点)
旧刑事訴訟法下(現行法293条1項参照)において、公判調書に「証拠調べ終了の告知」および「検察官の論告」の記載がない場合に、手続的な違法(理由不備または手続違背)が認められるか。
規範
裁判長が証拠調べを終えて被告人に対し意見弁解の有無を問い、かつ利益な証拠の提出機会を告知した際、被告人が「無い」と答えたときは、裁判長が特に事実及び証拠調べを終えた旨を告げず、また検事の論告が記録上見当たらない場合であっても、特段の発言禁止等の事情がない限り、検事に対して意見陳述(論告)の機会が与えられたものと解するのが相当である。
重要事実
被告人がAに対して暴行を加え傷害を負わせた事案において、原審の公判調書には、裁判長が事実並びに証拠調べを終えたことを告げた旨の記載がなく、また検察官が事実及び法律適用につき意見(論告)を述べた旨の記載もなかった。一方で、記録上、裁判長は証拠調べを終えた後に被告人に対し意見弁解の有無を問い、利益な証拠の提出を促しており、被告人はこれに対して「無い」と回答していた。
あてはめ
本件では、裁判長が証拠調べの終了後に被告人に対して最終的な陳述の機会を付与し、証拠提出を促すという実質的な審理の終結手続を行っている。このような状況下では、裁判長が特に検察官の発言を禁じていない以上、検察官には意見を述べる機会が保障されていたといえる。したがって、形式的に終了の告知や論告の記載が欠けていたとしても、適法な手続を経ていないという論旨は採用し得ない。
結論
公判手続の適法性を肯定し、上告を棄却する。
実務上の射程
公判手続の形式的欠落が直ちに無効事由となるわけではなく、手続全体の実質的保障(特に機会の付与)を重視する判断枠組み。もっとも、現行法下では検察官の論告は必要的であるため、実務上は記録の不備を避けるべきであり、本判例は手続的な瑕疵が実質的な不利益を招かない場合の限界事例として位置付けられる。
事件番号: 昭和24(れ)962 / 裁判年月日: 昭和24年10月11日 / 結論: 棄却
被告人Aの場合はただ記憶がないとか、私達は醉つていてはつきり解りませんがそこへどやどやと警察の人が來て捕まりましたとか、述べているまでゞあつて、其供述自体から所論刑の減兔の原由たる事實上の主張をしたものとは認めがたいものである。從つて原審において被告人Aに對しては其判斷を示さなかつたとしても所論の如き違法はなく、論旨は…