一 一部僞造の箇所のある轉出證明書用紙を素材としてその未完成部分にさらに虚僞の事實を記入しその僞造を完成したときは、公文書僞造罪を構成する。 二 配給所主任を欺罔して米麥を騙取し、さらにその米麥を統制額を超過して販賣した場合は、詐欺罪と物價統制令違反の罪の併合罪となる。 三 物價統制令第三六條第三三條に依り懲役と罰金を併科する場合、その情状を判示する必要はない。
一 一部僞造の箇所のある轉出證明書用紙を素材としてその未完成部分に虚僞の事實を記入した場合と公文書僞造罪の成否 二 配給所主任を欺罔して米麥を騙取しさらにその米麥を統制額を超過して販賣した場合の擬律 三 物價統制令第三六條第三三條に依り懲役及び罰金を併科する場合にその情状を判示することの要否
刑法155條1項,刑法246條1項,刑法45條前段,物價統制令3條,物價統制令36條,物價統制令33條,舊刑訴法360條1項
判旨
未完成の偽造文書に虚偽事実を書き加えて通用し得る程度に完成させる行為は文書偽造罪を構成し、詐取した物資を価格統制に違反して売却する行為は詐欺罪に包摂されず別罪(物価統制令違反)を構成する。
問題の所在(論点)
1.一部偽造された未完成の公文書に加筆して完成させる行為は、文書「偽造」にあたるか、それとも「変造」にあたるか。2.詐欺罪によって得た物を統制価格を超えて売却する行為は、詐欺罪の不可罰的事後行為となるか、それとも物価統制令違反が別罪として成立するか。
規範
1.文書偽造罪(刑法155条等)における「偽造」と「変造」の区別につき、変造は真正に成立した文書を基本とすべきであり、未完成の偽造文書にさらに虚偽事実を記入して偽造文書として通用し得る程度に完成させる行為は「偽造」に該当する。2.犯罪によって得た物の処分行為が不可罰的事後行為となるのは、既に侵害された同一の法益を継続的に侵害する場合に限られる。処分行為が、先の犯罪によって侵害された法益とは別個の刑罰法規が保護する別異の法益を侵害する場合には、別罪が成立する。
事件番号: 昭和26(あ)5184 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: その他
被告人が情を知らないA食糧事務所B出張所長Cに対し虚偽の申立を為し交付を受けた出荷証明書を行使したときは、かゝる証明書を以て偽造の公文書といえないのは勿論虚偽の公文書ともいえないこと当法廷の判例であるから(昭和二四年(れ)一四九六号同二七年一二月二五日当法廷判決参照)、これを行使した所為も罪とならないものといわなければ…
重要事実
被告人は共犯者と共謀し、食糧を騙取するため、他人名義の転出証明書用紙を買い受けた。その用紙には既に一部の偽造箇所があったが、被告人らは未記入の欄に氏名や転出先などの虚偽事項をペンで書き入れ、ゴム印を押すなどして、東京都中野区長作成名義の転出証明書を完成させた。その後、被告人らはこの偽造文書を行使して米麦を詐取し、その米麦を物価統制令の定める統制価格を超えた価格で第三者に売却した。
あてはめ
1.文書変造は真正に成立した文書を前提とする概念である。本件において、被告人らが加筆の対象とした転出証明書は真正に成立したものではなく、未完成の偽造文書である。これに虚偽事実を記入して文書としての体裁を整える行為は、文書の新たな作成と評価でき、文書偽造の範疇に属する。2.詐欺罪は個人の財産法益を保護するものであるが、物価統制令は「国民生活の安定」という公共の法益を保護する。詐取した米麦を単に売却するだけでなく、統制価格を超えて売却する行為は、詐欺による財産法益の侵害とは別個の法益を侵害するものである。したがって、後者の行為は詐欺罪に包摂される不可罰的事後行為とはいえない。
結論
1.未完成の偽造文書を完成させる行為は、文書偽造罪を構成する。2.詐欺の被害品を統制価格を超えて売却した行為には、詐欺罪とは別に物価統制令違反が成立し、併合罪となる。
実務上の射程
文書偽造・変造の区別について「真正な文書の有無」を基準とすることを明示しており、実務上の判断基準として有用である。また、不可罰的事後行為の限界を「保護法益の異同」に求める構成は、共罰的事後行為の成否が問題となる他の財産犯でも援用可能な射程を有している。
事件番号: 昭和27(れ)47 / 裁判年月日: 昭和27年11月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】有印公文書偽造罪(刑法155条1項)において、文書の性質上、特定の項目や一部の記載が本質的な意味を持つ場合、その部分に他人名義を冒用して虚偽の記載を行うことは、文書の社会的信用を害するものとして「偽造」に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、公的な発注書(証第二号の一)の作成権限がないにもかかわ…
事件番号: 昭和26(あ)1086 / 裁判年月日: 昭和27年11月11日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】複数の偽造公文書を一個の行為で一括して行使した場合、一個の行為で数個の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)が成立する。また、公文書偽造、同行使、及びこれに伴う詐欺行為の間には、手段と結果の関係が認められるため、牽連犯(同条1項後段)として処断される。 第1 事案の概要:被告人は、偽造された…
事件番号: 昭和27(あ)1657 / 裁判年月日: 昭和28年11月12日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】旅行者外食券を偽造する行為が刑法165条1項の有価証券偽造罪に該当することを認め、共犯関係にある被告人らに対して併合罪として懲役刑を科した。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、一般用旅行者外食券を大量に偽造した。また、当該偽造行為に付随して、配給所名を表示するためのゴム印や活字印、印刷用の原版…
事件番号: 昭和26(れ)2439 / 裁判年月日: 昭和28年2月20日 / 結論: その他
偽造公文書が一般人をして公務所または公務員の職務権限内において作成せられたものと信ぜしめるに足る形式外観を具えている以上は、その作成名義者たる公務所または公務員にその権限がない場合においても、刑法一五五条の偽造公文書というを妨げないものである。(大分県議会事務局印が押捺され、県議局第一〇四号という番号が附けてある同事務…