公判期日前被告人側から、裁判所に提出された書面でも、犯罪事實の存否に關係がなく犯罪後の被告人の情状に關するにすぎないもので單に參考のために提出されたと認められるときは、舊刑訴法第三四二條に規定する證據書類というような嚴格な證據方法ではない。
舊刑訴法第三四二條に規定する證據方法
舊刑訴342條
判旨
被告人の情状に関する書面は、裁判所に参考として一覧を求める趣旨に過ぎず、厳格な証明を要する証拠書類には当たらないため、証拠調べを経ずとも違法ではない。また、弁護人が犯情を説明するに際し精神耗弱に近い旨を述べたとしても、直ちに刑法上の減軽事由の主張があったとは解されない。
問題の所在(論点)
1. 弁護人が弁論において「精神耗弱に近い」と述べることは、法律上の減軽事由の主張にあたるか。 2. 被告人の情状に関する書面(上申書等)は、証拠調べを要する「証拠書類」に該当するか。
規範
犯罪事実の存否の証明に関するものではなく、犯罪後の被告人の情状(自己の失態の謝罪、将来の善行の誓約、改悛の情等)に関する書面は、裁判所に参考のため一覧を求める趣旨のものに過ぎない。これらは刑事訴訟法上の証拠書類(厳格な証明の対象)とは解されず、証拠調べの手続きを経ることを要しない。また、法律上の減軽事由の主張(旧刑訴法360条2項)があったと認められるには、単なる犯情の説明を超え、明確にその旨の主張がなされる必要がある。
重要事実
被告人の弁護人は、証拠調べ終了後の犯情弁護において「犯罪を犯す当時は一種の精神耗弱者に近い状態になる」と述べた。また、被告人側は、自己の失態を詫び将来の善行を誓った「上申書」および、保釈後の改悛の情が顕著であることを示す「証明書」を裁判所に提出したが、原審はこれらについて証拠調べを行わず、精神耗弱による減軽の主張に対する判断も示さなかった。これに対し、被告人側は審理不尽および理由不備を理由に上告した。
あてはめ
1. 弁護人の陳述は、証拠調べ終了後の犯情弁護の中でなされたものであり、「精神耗弱に近い」との表現に留まる。これは刑法39条2項の減軽事由を法律上の主張として申し立てたものとは解されないため、これに対する判断を判決で示す必要はない。 2. 被告人が提出した上申書等は、犯罪事実そのものの存否を証明するものではなく、犯罪後の情状に関するものである。これらは裁判所に参考として閲覧を求める性質のものであり、厳格な証拠調べを要する証拠方法には当たらないため、証拠調べを実施しなかった原審の措置は適法である。
結論
被告人の上告を棄却する。情状に関する書面は証拠調べを要さず、また曖昧な犯情説明は法律上の減軽事由の主張とは認められない。
実務上の射程
刑事訴訟における「厳格な証明」と「自由な証明」の区別に関する基本判例である。特に情状に関する証拠(情状証拠)が、犯罪事実の存否に関わる証拠と異なり、必ずしも厳格な証拠調べを必要としない場合があることを示している。答案上は、証拠調べの要否や判決の理由不備(主張に対する判断の要否)を検討する際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)653 / 裁判年月日: 昭和26年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯行当時に心神耗弱の状態にあったとしても、その事実のみをもって直ちに検察官面前調書作成時においても同様の状態にあったとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が犯行当時、心神耗弱の状態にあったと主張される事案において、弁護人は、検察官による聴取書(検面調書)作成時も同様の状態であったとして、憲法…