国税犯則取締法第三条第一項の規定は、憲法第三五条に違反しない。
国税犯則取締法第三条第一項の規定は憲法第三五条に違反するか
国税犯則取締法3条1項,憲法35条,憲法33条
判旨
憲法35条の令状主義の保障は、33条が不逮捕の保障の例外とする現行犯の場合には及ばない。したがって、現行犯の現場において、逮捕の有無を問わず令状なしに捜索・押収を行うことを定めた法律は、憲法35条に違反しない。
問題の所在(論点)
現行犯の現場において、裁判官の令状なく捜索・差押えを行うことを認める法律(旧国税犯則取締法3条1項)の規定は、憲法35条の令状主義に違反するか。特に、現行犯逮捕を伴わない場合であっても令状なしの捜索・押収が許されるかが問題となる。
規範
憲法35条1項は、同33条の場合(不逮捕の保障が存しない場合)を除外して、住居等の不可侵を保障している。したがって、33条が現行犯逮捕を令状不要の例外としている以上、現行犯の場合には35条の保障も及ばない。ゆえに、現行犯の現場において司法官憲の令状によらずに捜索、押収等をなし得る旨を法律が規定することは、立法政策の問題に過ぎず、憲法35条違反の問題を生じない。
重要事実
被告人が、酒類の密造を幇助したとして酒税法違反で起訴された。その証拠として、収税官吏が国税犯則取締法3条1項(当時)に基づき、裁判官の令状なく被告人の居宅を臨検し、現場で差し押さえた密造酒や機械器具、およびその経緯を記した大蔵事務官作成の顛末書が提出された。被告人側は、同法が憲法35条の令状主義に違反し、当該証拠は違法収集証拠であると主張して上告した。
あてはめ
憲法33条は、現行犯の場合には令状なくして逮捕できることを規定している。この「現行犯の場合」という例外規定は、35条の捜索・押収の保障においても準用される。本件で適用された国税犯則取締法3条1項は、間接国税に関する犯則の現場における特例を定めたものである。同法が、現行犯の現場において急速を要する場合に令状なしの強制処分を認めたとしても、それは憲法35条が保障の例外とする「現行犯の場合」に含まれるため、令状主義の潜脱にはあたらない。また、現実に逮捕がなされたか否かは、同条の憲法適合性を左右するものではない。
結論
国税犯則取締法3条1項は憲法35条に違反しない。したがって、同条に基づく令状なき差押えおよび関連書類の証拠採用は適法である。
実務上の射程
現行犯状況下での令状なき強制処分の合憲性を基礎づける判例である。もっとも、後の川崎民商事件判決等により、行政手続における強制処分についても憲法35条の保障が及ぶことが明確化されたため、本判決の「行政手続には35条が及ばない」とする補足意見的な論理よりも、現行犯の例外(刑訴法220条の令状なき捜索・差押え)の合理性を裏付ける文脈で参照されることが多い。
事件番号: 昭和29(あ)758 / 裁判年月日: 昭和31年6月29日 / 結論: 棄却
収税官吏が国税犯則取締法第三条第一項の規定に基き犯則の現場において、犯則嫌疑者を立ち会わしめて臨検、捜索および差押をなし、かつ、犯則嫌疑者に質問をした顛末を記載した書面、右現場において差押えた証憑物件およびその差押目録は憲法第三五条に違反する手続によつてなされたものということはできない。