記録を査閲するに、所論のAについては第一審公判廷において辯護人から證人として尋問の請求があつて、同裁判所は右申請を許容しその第二回公判において同人を證人として尋問し、もつて被告人に對して反對尋問の機會を與えていることが認められる。しからば原審において右Aにつき、辯護人から證人尋問の請求があつたのに對し、原審はこれを採用せず、もつて原審は同人を尋問する機會を被告人に與えずに、檢事の同人に對する聽取書を證據として採用しても原判決が刑訴應急措置法第一二條第一項に違反するものとはいえないのである(同旨昭和二四年(れ)第一三五八號同年八月二日第三小法廷判決参照)論旨は理由がない。
第一審で證人訊問をなし第二審で却下した同證人に對する檢事の聽取書を採證したことと刑訴應急措置法第一二條第一項
刑訴應急措置法12條1項,舊刑訴法337條
判旨
第一審で証人尋問を行い反対尋問の機会が与えられた証人について、控訴審で重ねて証人尋問の請求を却下し、検察官面前調書を証拠として採用しても、憲法37条2項に反しない。
問題の所在(論点)
第一審で反対尋問の機会が与えられていた証人について、控訴審で新たな証人尋問を行うことなく、当該証人の検察官面前調書を証拠として採用することが、被告人の証人審問権(憲法37条2項)を保障した刑訴応急措置法12条1項(現行刑訴法321条等の趣旨)に違反するか。
規範
被告人に証人に対する反対尋問の機会が一度でも与えられたのであれば、その後の公判手続において当該証人の供述録取書(検察官面前調書等)を証拠として採用することは、被告人の証人審問権(憲法37条2項)を侵害するものではなく、適法である。
重要事実
被告人が住居侵入等の罪で起訴された事案において、第一審裁判所は証人Aの召喚を認め、第2回公判において証人尋問を実施し、被告人側に対しても反対尋問の機会を与えた。その後、控訴審(原審)において弁護人が再度Aの証人尋問を請求したが、原審はこれを採用せず、代わりに検察官が作成したAの聴取書(供述録取書)を証拠として採用し、有罪判決の資料とした。
あてはめ
記録によれば、第一審第2回公判において証人Aに対する尋問が実施されており、被告人に対して有効に反対尋問の機会が与えられていた事実は明白である。この場合、被告人の憲法上の権利である証人審問権は既に実質的に保障されたといえる。したがって、原審が重ねてAを尋問することなく検察官作成の聴取書を証拠として採用したとしても、既に付与された審問の機会を否定するものではなく、手続に違法はないと解される。
結論
本件における原審の証拠採用手続は、刑訴応急措置法12条1項(憲法37条2項の趣旨を体現する規定)に違反しない。上告棄却。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条等)の背後にある証人審問権の保障について、「一度でも反対尋問の機会が与えられれば足りる」とする法理を示す。もっとも、現行法下では321条各号の要件(供述不能や特信状況等)を満たす必要があるため、本判決はそれらの要件が憲法上許容される根拠を補強する文脈で使用すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)5170 / 裁判年月日: 昭和30年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項の証人審問権は、公判で喚問された証人への反対尋問の機会を保障するものであり、所定の要件を満たす裁判官面前調書の証拠能力を認める刑訴法321条1項1号は憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、公判外で裁判官により作成された証人尋問調書(刑訴法227条、228条に基づくもの)につ…