一 執行猶予の言渡前にすでに他の罪につき禁錮以上の刑に処せられたことが発覚していた場合には、刑法二六条三号によつて執行猶予の言渡を取消すことはできないものと言わなければならない。 二 昭和二四年一月一日前に公訴の提起があつたいわゆる旧刑訴事件についてなされた刑執行猶予言渡に対する取消請求事件については、刑訴施行法第二条により、旧刑訴法及び刑訴応急措置法によるべきである。 三 いわゆる旧刑訴事件について簡易裁判所がした刑執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告の申立については、昭和二三年法律第二六〇号による改正前の裁判所法第二四条第三号により地方裁判所がこれを審判すべきである。 四 いわゆる旧刑訴事件について簡易裁判所がした刑執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告の申立について、誤つて高等裁判所が新刑訴法を適用して棄却の決定をした場合でも、この決定に対しては、刑訴応急措置法第一八条により特別抗告をするは格別、刑訴第四二八条第二項による異議の申立又は刑訴第四三三条による特別抗告をすることはできない。 五 刑法第二六条第一項第三号に「猶予ノ言渡前他ノ罪ニ付キ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコト発覚シタルトキ」とあるは、所定の処刑の事実が猶予の言渡後に発覚した場合をいうのであつて、その言渡前に既に発覚していた場合はこれにあたらない。
一 刑法第二六条第三号の意義 二 昭和二四年一月一日前に公訴の提起があつた事件についてなされた刑執行猶予言渡に対する取消請求事件に適用される手続法 三 いわゆる旧刑訴事件について簡易裁判所がした決定に対する管轄抗告裁判所 四 いわゆる旧刑訴事件について簡易裁判所がした決定に対する即時抗告の申立について、高等裁判所が新刑訴法を適用して棄却した決定に対する不服申立の方法 五 刑法第二六条第一項第三号の「猶予ノ言渡前他ノ罪ニ付キ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコト発覚シタルトキ」の意義
刑法26条3号,刑法26条1項3号,刑訴施行法2条,旧刑訴法374条,昭和23年12月21日法律260号裁判所法の一部を改正する等の法律による改正前及び改正後の裁判所法16条2号,昭和23年12月21日法律260号裁判所法の一部を改正する等の法律による改正前及び改正後の裁判所法24条3号,右改正法律附則11条,刑訴応急措置法18条,刑訴法428条2項,刑訴法433条
判旨
刑法26条3号にいう「前科が発覚したとき」とは、執行猶予の言渡後に初めて前科の存在が判明した場合を指す。言渡前にすでに前科が判明していた場合には、たとえ裁判所が誤って執行猶予を付したとしても、同号による取消しは認められない。
問題の所在(論点)
刑法26条3号にいう「発覚したとき」の意義。特に、執行猶予の言渡前に既に裁判所や検察官が前科を認識していた場合に、同号による執行猶予の取消しが可能か。
事件番号: 昭和53(し)87 / 裁判年月日: 昭和53年11月22日 / 結論: その他
一 刑法二六条の二第三号にいう「執行ヲ猶予セラレタルコト発覚シタルトキ」とは、検察官において新たに執行猶予を言渡した裁判に対し上訴してこれを是正するみちがとざされたのちに同条同号所定の執行猶予の前科の存在する事実を覚知したことをいい、検察官が右事実をすでに覚知しながら上訴申立をすることなく執行猶予の裁判を確定させたとき…
規範
刑法26条3号(必要的取消し)の「猶予ノ言渡前他ノ罪ニ付キ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコト発覚シタルトキ」とは、猶予の言渡後に生じた「前科発覚」という出来事を指すと解すべきである。単に前科があることだけでは足りず、それが言渡「後」に発覚したことが要件となる。言渡前に発覚していたにもかかわらず執行猶予を付した場合は、検察官の控訴等による上訴手続で是正すべきであり、確定後に同号を用いて取り消すことはできない。
重要事実
被告人の窃盗事件につき、簡易裁判所は懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡した。しかし、当該事件の記録には、言渡前に作成された前科調書や前科回答書が編綴されており、第1回公判でも裁判官が被告人に前科を読み聞かせ、被告人もこれを認めていた。判決確定後、検察官は刑法26条3号に基づき、言渡前の前科発覚を理由として執行猶予の取消しを請求し、原審がこれを認めたため、被告人が特別抗告を行った。
あてはめ
本件では、記録上、前科調書や回答書が既に存在し、公判において裁判官が前科の内容を読み聞かせている。したがって、被告人の前科は、窃盗事件の執行猶予言渡前に、検察官および裁判官のいずれにとっても「発覚」していたものと認められる。このように、言渡前に前科が既知であった場合には、刑法26条3号の要件を満たさない。裁判所が誤って猶予を付したことは違法であるが、それは控訴によって是正されるべき事由であり、確定後に必要的取消事由として扱うことは、法の文言および手続的安定性の観点から許されない。
結論
本件執行猶予の取消決定は刑法26条3号の解釈を誤ったものである。ただし、本件は旧法下の特別抗告理由に該当しない等の理由により、結論として抗告は棄却される。
実務上の射程
執行猶予の必要的取消事由の厳格解釈を示す。裁判所・検察官の過失により前科を見逃して猶予を付した場合、確定後の取消しは困難となるため、言渡前の前科照会の徹底という実務上の留意点を示唆する。
事件番号: 昭和56(し)113 / 裁判年月日: 昭和56年11月25日 / 結論: その他
一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件において、裁判の執行を停止する場合には、原原決定を対象とすべきである。 二 高裁で言い渡された執行猶予の判決に対する上告申立期間の満了までに五日を残して、被告人の控訴取下により別件につき地裁で言い渡された懲役刑(実刑)の判決の確定したことが地方検察…
事件番号: 昭和54(し)27 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: その他
刑法二六条一号にいう「禁錮以上ノ刑ニ処セラレ」とは、禁錮以上の刑の言渡をした判決が確定したことをいう。
事件番号: 昭和48(し)7 / 裁判年月日: 昭和48年2月28日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の判決に対し被告人のみが控訴し、この控訴申立期間経過後で同判決の確定前に、被告人に対する別件被告事件について禁錮刑(実刑)の裁判が確定した場合は、右刑の執行猶予の判決の確定をまつて刑法二六条三号により刑の執行猶予の言渡を取り消すことができる。
事件番号: 昭和40(し)74 / 裁判年月日: 昭和41年1月28日 / 結論: その他
一 執行猶予の判決に対する検察官の控訴を棄却する旨の判決言渡後確定前に、検察官において、被告人が他の罪について禁錮以上の実刑に処せられた事実を覚知したのにかかわらず、右控訴棄却の判決に対して上告の申立をすることなく、これを確定させたときは、刑法第二六条第三号により右執行猶予を取り消すことはできない。 二 弁護人は、本件…