一 刑法二六条の二第三号にいう「執行ヲ猶予セラレタルコト発覚シタルトキ」とは、検察官において新たに執行猶予を言渡した裁判に対し上訴してこれを是正するみちがとざされたのちに同条同号所定の執行猶予の前科の存在する事実を覚知したことをいい、検察官が右事実をすでに覚知しながら上訴申立をすることなく執行猶予の裁判を確定させたときは、右執行猶予を取り消すことはできない。 二 検察庁の犯歴票に執行猶予の障害となる前科がすでに登載されており、検察官において前科照会をするなどの方法で右前科の存在する事実を容易に知ることができたのに前科の存在に気付かないまま新たに執行猶予を言渡した裁判を確定させた場合には、検察官が右前科の存在する事実を現実に知つていた場合と同様に、刑法二六条の二第三号により右執行猶予を取り消すことはできない。
一 刑法二六条の二第三号による刑の執行猶予取消の要件 二 刑の執行猶予を取り消すことができないとされた事例
刑法26条の2第3号,刑訴法349条
判旨
刑法26条の2第3号にいう執行猶予の前科が「発覚したとき」とは、検察官が上訴による是正が不可能となった後に前科を覚知したことを指し、容易に知ることができた場合も現実に知っていた場合と同様に取消請求権を失う。
問題の所在(論点)
刑法26条の2第3号の「猶予の言渡しを受けたことが発覚したとき」の意義、および検察官が過失により前科を見落とした場合に執行猶予の取消請求が可能か。
規範
刑法26条の2第3号の「発覚したとき」とは、検察官において、新たに執行猶予を言い渡した裁判に対し上訴してこれを是正する道が閉ざされた後に、執行猶予の前科の存在を覚知したことをいう。検察官が事実を覚知しながら上訴せずに確定させた場合は取消請求権を失う。また、検察庁の犯歴票に登載済みであるなど、検察官が容易に前科の存在を知り得た場合も、現実に知っていた場合と同様に解すべきである。
重要事実
事件番号: 昭和56(し)113 / 裁判年月日: 昭和56年11月25日 / 結論: その他
一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件において、裁判の執行を停止する場合には、原原決定を対象とすべきである。 二 高裁で言い渡された執行猶予の判決に対する上告申立期間の満了までに五日を残して、被告人の控訴取下により別件につき地裁で言い渡された懲役刑(実刑)の判決の確定したことが地方検察…
申立人は強姦致傷罪で保護観察付執行猶予判決を受け確定し、犯歴票に登載された。その後、道路交通法違反を犯したが、捜査検察官が特定の軽微な前科のみを記載した調書を請求・提出したため、裁判所は前科がないものと誤認して再度の執行猶予を言い渡した。判決確定後、検察官が強姦致傷罪の前科に気付き、刑法26条の2第3号等に基づき執行猶予の取消しを請求した。
あてはめ
本件強姦致傷罪の前科は、後案の公判段階ですでに検察庁の犯歴票に登載されていた。検察官としては、全前科について照会するなどの方法により、容易に当該前科の存在を知ることができたといえる。このような場合、検察官は上訴によって新たな執行猶予を阻止することができたといえるため、現実に知っていた場合と同様に、もはや執行猶予の取消請求権を行使することは許されない。
結論
検察官の執行猶予取消請求は認められない。容易に知り得た前科を理由とする取消請求を認めることは刑法26条の2第3号の解釈を誤るものであり、検察官の即時抗告を棄却した原判決(第1審)の結果が維持される。
実務上の射程
検察官による前科の把握漏れがある場合において、被告人の法的地位の安定を図る射程を持つ。答案上は、執行猶予取消しの可否が問われる場面で、検察官の「覚知」の有無だけでなく「容易に知り得たか」という客観的な調査可能性を検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和24(つ)87 / 裁判年月日: 昭和27年2月7日 / 結論: 棄却
一 執行猶予の言渡前にすでに他の罪につき禁錮以上の刑に処せられたことが発覚していた場合には、刑法二六条三号によつて執行猶予の言渡を取消すことはできないものと言わなければならない。 二 昭和二四年一月一日前に公訴の提起があつたいわゆる旧刑訴事件についてなされた刑執行猶予言渡に対する取消請求事件については、刑訴施行法第二条…
事件番号: 昭和31(し)32 / 裁判年月日: 昭和33年2月10日 / 結論: その他
刑法第二六条第三号により刑の執行猶予を取消すには、検察官において、上訴の方法により、違法に言渡されたの執行猶予の判決を是正する途がとざされた場合すなわち、執行猶予の判定確定によつて進行を始めた猶予期間中に、「猶予ノ言渡前他ノ罪ニ付禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコト」が、検察官に発覚したときであることを要する。
事件番号: 昭和60(し)106 / 裁判年月日: 昭和60年11月29日 / 結論: 棄却
執行猶予の言渡しがあつた事件において、被告人が、捜査官に対しことさら知人である甲女の氏名を詐称し、かねて熟知していた同女の身上及び前科をも正確詳細に供述するなどして、あたかも甲女であるかのように巧みに装つたため、捜査官が全く不審を抱かず、指紋の同一性の確認をしなかつたことにより、当該判決の確定前に被告人自身の前科を覚知…
事件番号: 昭和26(し)67 / 裁判年月日: 昭和33年3月17日 / 結論: その他
刑法第二六条(昭和二八年法律第一九五号による改定前のもの)二号にいう「猶予ノ言渡前ニ犯シタル他ノ罪ニ付禁錮以上ノ刑ニセラレタルトキ」とは、その罪につきの禁錮以上の実刑を言渡された場合を指すものであつて、刑の執行猶予の言渡があつた場合を含まない趣旨に帰着する。