刑法第二六条第三号により刑の執行猶予を取消すには、検察官において、上訴の方法により、違法に言渡されたの執行猶予の判決を是正する途がとざされた場合すなわち、執行猶予の判定確定によつて進行を始めた猶予期間中に、「猶予ノ言渡前他ノ罪ニ付禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコト」が、検察官に発覚したときであることを要する。
刑法第二六条第三号による刑の執行猶予の取消の要件
刑法26条,憲法39条,刑訴法349条,刑訴法433条
判旨
検察官が被告人の執行猶予欠格事由を知りながら上訴せず判決を確定させた場合、刑法26条3号に基づく執行猶予の取消請求権は失われる。同条項による取消しは、上訴による是正が不可能となった後に欠格事由が発覚した場合に限って許容される。
問題の所在(論点)
検察官が被告人の執行猶予欠格事由を判決確定前に知り得たにもかかわらず、上訴せず判決を確定させた後に刑法26条3号に基づき執行猶予の取消しを請求することが許されるか。
規範
刑法26条3号の趣旨は、検察官が被告人の執行猶予欠格事由を知らずに言渡しがなされた場合に、その是正を認める点にある。検察官において判決言渡後、その確定前に欠格事由を覚知したときは、本来上訴権を行使して執行猶予を阻止すべき任務を負う。したがって、検察官が欠格事由を覚知しながら上訴せず判決を確定させたときは、取消請求権は失われ、裁判所もこれを取り消すことができない。同号の適用は、上訴による是正の途が閉ざされた判決確定後の猶予期間中に欠格事由が発覚したときに限定される。
重要事実
抗告人Aは、昭和30年2月21日に別件で懲役6月の言渡しを受け、昭和31年1月5日に確定していた。その後、Aは本件(詐欺横領等)で昭和31年1月13日に懲役1年執行猶予3年の言渡しを受けた。検察官は、本件の判決確定前である昭和31年1月20日に別件の確定事実(執行猶予の欠格事由)を覚知したが、上訴を申し立てることなく、同年1月28日に本件判決を確定させた。その後、検察官は刑法26条3号に基づき執行猶予の取消しを請求した。
事件番号: 昭和40(し)74 / 裁判年月日: 昭和41年1月28日 / 結論: その他
一 執行猶予の判決に対する検察官の控訴を棄却する旨の判決言渡後確定前に、検察官において、被告人が他の罪について禁錮以上の実刑に処せられた事実を覚知したのにかかわらず、右控訴棄却の判決に対して上告の申立をすることなく、これを確定させたときは、刑法第二六条第三号により右執行猶予を取り消すことはできない。 二 弁護人は、本件…
あてはめ
検察官は、本件判決が確定する8日前の時点で、既に抗告人が執行猶予の欠格者であることを覚知していた。検察官には上訴によって違法な執行猶予の言渡しを是正すべき任務があるにもかかわらず、本件では上訴権を行使することなく、あえて判決を確定させている。このように、上訴による是正が可能であったにもかかわらずこれを行わなかった場合、確定後に刑法26条3号を適用して取消しを求めることは、同条項の趣旨に反すると評価される。したがって、本件の取消請求は許容されない筋合にあるといえる。
結論
検察官は取消請求権を失うため、本件執行猶予取消請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
検察官の「覚知」の有無が判断の分水嶺となる。答案上、刑法26条3号の適用場面では、単なる事後発覚か、あるいは検察官が上訴可能期間中に認識していたかを事実関係から精査する必要がある。検察官の不作為による確定判決の蒸し返しを制限する法理として重要である。
事件番号: 昭和53(し)87 / 裁判年月日: 昭和53年11月22日 / 結論: その他
一 刑法二六条の二第三号にいう「執行ヲ猶予セラレタルコト発覚シタルトキ」とは、検察官において新たに執行猶予を言渡した裁判に対し上訴してこれを是正するみちがとざされたのちに同条同号所定の執行猶予の前科の存在する事実を覚知したことをいい、検察官が右事実をすでに覚知しながら上訴申立をすることなく執行猶予の裁判を確定させたとき…
事件番号: 昭和56(し)113 / 裁判年月日: 昭和56年11月25日 / 結論: その他
一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件において、裁判の執行を停止する場合には、原原決定を対象とすべきである。 二 高裁で言い渡された執行猶予の判決に対する上告申立期間の満了までに五日を残して、被告人の控訴取下により別件につき地裁で言い渡された懲役刑(実刑)の判決の確定したことが地方検察…
事件番号: 昭和48(し)7 / 裁判年月日: 昭和48年2月28日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の判決に対し被告人のみが控訴し、この控訴申立期間経過後で同判決の確定前に、被告人に対する別件被告事件について禁錮刑(実刑)の裁判が確定した場合は、右刑の執行猶予の判決の確定をまつて刑法二六条三号により刑の執行猶予の言渡を取り消すことができる。
事件番号: 昭和54(し)76 / 裁判年月日: 昭和54年7月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条の2第2号に規定される「其情状重キトキ」という文言は、不明確であるということはできず、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:執行猶予の言渡しを受けた者が、猶予期間中にさらに罪を犯し、罰金に処せられた等の事由により、刑法26条の2第2号に基づき執行猶予が取り消された。これに対し弁護人…