一 原判決の認定した本件被害物件は元軍用アルコールであつて、かりにこれはいわゆる隠匿物資であるために、私人の所持を禁ぜられているものであるとしても、それがために所論のごとく詐欺罪の目的となり得ないものではない。刑法における財物取罪の規定は人の財物に對する事實上の所持を保持せんとするものであつて、これを所持するものが、法律上正當にこれを所持する權限を有するかどうかを問はず、たとい刑法上その所持を禁ぜられている場合でも現實にこれを所持している事實がある以上社會の法的秩序を維持する必要からして、物の所持という事實上の状態それ自體が獨立の法益として保護せられみだりに不正の手段によつて、これを侵すことを許さぬとする趣意である。 二 被告人と(詐欺の)被害者との間における親族關係の存在は、單に、法律上刑の免除の原由たるに過ぎないのであるから、原審において、特に、被告人側から、その存在を主張した事實のない本件においては判決においてその関係の存在しないことを明示しなかつたからといつて、これを違法ということはできない。
一 私人の所持を禁ぜられている物に對する詐欺罪の成立 二 詐欺の被害者と被告にとの間における親族關係の有無につき判斷明示の要否
刑法246條,刑法251條,刑法244條,舊刑訴法360條2項
判旨
刑法における財物罪の規定は、物の所持という事実上の状態それ自体を独立の法益として保護するものである。したがって、所持が禁止されている隠匿物資であっても、現実に人が所持している以上は詐欺罪の客体(財物)になり得る。
問題の所在(論点)
刑法上の所持が禁止されている物件(禁制品・隠匿物資等)について、詐欺罪(246条1項)の客体である「財物」性が認められるか。
規範
刑法が規定する財物罪の保護法益は、財物に対する事実上の所持そのものである。したがって、所持者が法律上の正当な所持権限を有しているか否か、あるいは刑法上その所持が禁止されているか否かを問わず、現実にこれを所持しているという事実がある以上、社会の法的秩序を維持する観点から、不正な手段による侵害は許されず、当該物件は「財物」に該当する。
事件番号: 昭和24(れ)1603 / 裁判年月日: 昭和24年11月17日 / 結論: 棄却
所論「家庭用主食購入通帳」は、一個人の所有權の容体となるべき有体物であるから、刑條にいわゆる財物にあたるものといわなければならない。從つて該通帳が本件被告人の配給物資を騙取せんがための手段であり、道具であるに過ぎなかつたとしても、詐欺罪の成立を妨げる理由はない。されば原審が被告人の所爲に對し食糧緊急措置令第一〇又は刑法…
重要事実
被告人は、被害者Aが現実に所持していた元軍用アルコールを騙取した。当該アルコールはいわゆる「隠匿物資」であり、私人の所持が法律上禁止されている可能性のある物件であった。被告人側は、このような禁制品は詐欺罪の目的(客体)となり得ないと主張して上告した。
あてはめ
本件被害物件である元軍用アルコールは、仮に隠匿物資として所持が禁じられているものであったとしても、被害者Aによって現実に所持されていた。財物罪は事実上の所持を保護するものであるから、その所持が法律上正当か否かは問題とならない。したがって、現実にAが所持していた事実がある以上、これを騙取する行為は詐欺罪における財物の侵害にあたるといえる。
結論
隠匿物資であっても、現実に占有されている限り詐欺罪の客体となる。したがって、被告人に詐欺罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は「本権説」ではなく「占有説(所持そのものを保護する考え方)」に立つことを明確にしている。答案上では、盗品や禁制品(覚醒剤等)の財物性が問題となる場面で、本判決の「事実上の所持を保護する」という規範を引用し、不法な所持であっても窃盗罪や詐欺罪の客体になり得ることを論じる際に活用する。
事件番号: 昭和25(れ)430 / 裁判年月日: 昭和25年6月1日 / 結論: 棄却
詐欺罪の目的物たる財物とは、財産權ことに所有權の目的となることを得べき物をいい、必ずしも金錢的價値を有すると否とを問わないものである。そして、原判決の認定した詐欺の目的物は、兵庫縣經濟部商工課長名義のA戰災者同盟本部宛硝子特配申請の件については四箱の配給を約束する旨の書面であるから、かゝる配給を受くべき財産上の利益を期…