詐欺罪の目的物たる財物とは、財産權ことに所有權の目的となることを得べき物をいい、必ずしも金錢的價値を有すると否とを問わないものである。そして、原判決の認定した詐欺の目的物は、兵庫縣經濟部商工課長名義のA戰災者同盟本部宛硝子特配申請の件については四箱の配給を約束する旨の書面であるから、かゝる配給を受くべき財産上の利益を期待しうべき書面であり、從つて經濟的價値なしといえないばかりでなく、少くとも所有權の目的となることを得べきものであること明らかであるといわなければならない。從つて、たといその約束書それ自体が所論のように硝子板の受配の權利を附與するものでないとしても財物でないとはいえない。
縣經濟部商工課長名義の硝子の配給を約束する書面には詐欺罪の目的物たる財物にあたるか
刑法246條
判旨
詐欺罪における「財物」とは、所有権の目的となり得る物を指し、必ずしも金銭的価値を有することを要しない。配給を約束する旨の書面のように、財産上の利益を期待し得る書面は、所有権の目的となり得るため、詐欺罪の財物にあたる。
問題の所在(論点)
刑法246条1項にいう「財物」の定義、および特定の物資の配給を約束する旨が記載された書面が「財物」に該当するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の客体である「財物」とは、財産権、特に所有権の目的となり得る物をいい、必ずしも客観的な金銭的価値を有することを要しない。法的な権利を直接付与する書面でなくとも、財産上の利益を期待し得るものであり、かつ所有権の対象として占有の移転が想定されるものであれば、同条の「財物」に該当する。
重要事実
被告人は、県経済部課長名義の戦災者同盟本部宛ての書面を欺取した。当該書面は、硝子板4箱の配給を約束する旨の内容が記載された申請に関する回答文書であった。弁護人は、当該書面自体が硝子板の受配権を付与するものではなく、経済的価値がないため、詐欺罪の客体である「財物」には当たらないと主張して上告した。
あてはめ
本件の書面は、硝子板の配給を約束する旨が記載されており、これを受け取ることにより将来的に財産上の利益を期待し得るものである。したがって、経済的価値が全くないとはいえない。また、仮に当該書面自体に直接的な受配権を発生させる法的効力が認められないとしても、書面自体が独立して所有権の目的となり得る物であることは明らかである。ゆえに、占有を移転させることにより他人の財産を侵害する詐欺罪の客体性を備えているといえる。
結論
本件書面は詐欺罪の客体である「財物」に該当する。したがって、これを欺取した行為には詐欺罪が成立する。
実務上の射程
財物の経済的価値の有無にかかわらず、所有権の目的となり得るものであれば財物性を肯定する判例であり、利益窃盗(2項詐欺)との区別や、無価値に見える主観的価値のある物の窃盗・詐欺を論じる際の規範として機能する。答案上は、物の経済的価値が乏しい場合であっても、管理可能性や所有権の客体性を根拠に1項詐欺(または窃盗)を認める論理として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)4187 / 裁判年月日: 昭和27年4月24日 / 結論: 棄却
旅行者用外食券もまた財物である。