一 有毒飮食物等取締令後段所定の過失犯に對する科刑の標準は故意犯の場合と同樣である。 二 有毒飮食物等取締令第四條が、故意犯と過失犯につき區別を設けず、過失犯にも體刑を科し得ると定めたことは、憲法第一三條に違反するものではない。 三 有毒飮食物等取締令第四條第一項に該る個々の事件について過失による犯行について罰金刑と體刑と何れを科するか又併科するかは事實審たる原裁判所の裁量權にのみ屬するところであるから、原審が過失による被告人等の犯行について諸般の事情を考慮參酌して體刑を科したからといつて所論のような法令を不當に適用した違法ありとはいえない。
一 有毒飮食物等取締令第四條第一項所定の過失犯に對する科刑の標準 二 有毒飮食物等取締令第四條第一項と憲法第一三條 三 有毒飮食物等取締令第四條第一項に該る過失犯に體刑を科したことと上告理由
有毒飮食物等取締令4條1項,憲法13條,刑訴應急措置法13條2項
判旨
有毒飲食物の販売等に関し、故意犯と過失犯で法定刑に区別を設けない規定は、公衆の生命・健康の維持という公共の福祉のために必要であり、憲法13条に違反しない。また、過失犯に対して体刑を科すか否かは事実審の裁量に属する。
問題の所在(論点)
有毒飲食物の販売罪において、故意犯と過失犯を区別せず、過失犯に対しても重い体刑を科し得る規定は、憲法13条(個人の尊重・生命自由幸福追求権)に反し違憲か。
規範
憲法13条が保障する個人の権利も、社会生活の秩序や共同の幸福(公共の福祉)による制限を受ける。公衆の生命・健康を脅かす危険な飲食物の徹底的な取締りという重要な公益目的がある場合、その目的達成のために必要な範囲内であれば、故意・過失を問わず厳格な法定刑を設けることも憲法上許容される。また、法定刑の範囲内で具体的な刑種を選択することは、裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
重要事実
事件番号: 昭和23(れ)1033 / 裁判年月日: 昭和23年12月15日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令は憲法第三六條に違反しない。 二 有毒飮食物等取締令の刑が重いからと云つて憲法第一三條に違反するものではない。 三 有毒飮食物等取締令は裁判官に對して、良心に反する裁判を強うるもので憲法違反であるなどいうものではない。 四 有毒飮食物等取締令第四條第三項が勅令で刑法第六六條の適用を除外したからと云…
被告人らは、有毒なメチルアルコールを含有するアルコールを、飲用として販売した。適用された有毒飲食物等取締令4条1項は、故意・過失を問わず「3年以上15年以下の体刑(懲役)」等の重い刑罰を規定していた。被告人らは、過失犯に対して故意犯と同様の重い体刑を科し得る同規定は、憲法13条に違反する無効なものであり、過失犯には罰金刑のみを科すべきであると主張して上告した。
あてはめ
戦後の社会情勢において、有毒飲料による失明や死亡が続出しており、厳重な取締りの必要性は顕著であった。このような公衆の健康・生命の保全という「公共の福祉」の観点から、危険な飲食物を徹底的に排除すべく、過失犯に対しても故意犯と同等の重い法定刑を定めることは合理的必要性が認められる。したがって、同令4条が故意・過失で法定刑に区別を設けていない点は、憲法13条の枠外(公共の福祉による制限)として正当化される。また、過失犯に対し実際に体刑を科すか否かは、諸般の事情を考慮した事実審の裁量権の行使として適法である。
結論
本件規定は憲法13条に違反せず合憲である。過失犯に対し懲役刑を科した原判決に法令適用の錯誤はない。
実務上の射程
人権の制約が「公共の福祉」によって正当化される際の判断基準を示す初期の重要判例である。答案上は、生命・身体という重大な法益を保護するための強力な規制が、故意・過失の区別を超えて合理性を有するかを検討する際の論拠として活用できる。もっとも、現代の刑事法学における責任主義との整合性には注意を要する。
事件番号: 昭和23(れ)1167 / 裁判年月日: 昭和24年3月17日 / 結論: 棄却
一 本件アルコールは前述のごとく社會通念上飲食物というに足る外觀形態を與えられたものではないから、飲食物等取締令第一條第一項を適用すべき場合に該當しない。そして「飲食物に供する目的を以て」販賣した事實を認定し右第二項を適用したのは正當であつて違法はない。 二 論旨は被告人Aの諸事情「少くとも被告人Aがかかる注意義務を認…
事件番号: 昭和23(れ)659 / 裁判年月日: 昭和23年11月25日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令第一條第一項の「飮食物」は、所論のごとく「販賣」の用に供する飮食物に限定すべき理由はない。 二 有毒飮食物等取締令第一條の「讓渡」が有償であるか無償であるかは同條違反罪の成否に關係がないから、その何れに屬するかを判示しなくとも審理不盡ということはできぬ。 三 製造元も明らかでなく、又その性質も判ら…
事件番号: 昭和23(れ)1647 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 破棄差戻
一 昭和二一年六月十七日以前過失によりメタノールであることを知らないでメタノールを販売した行為は、有毒飲食物等取締令により処罰することができない。 二 原判決は、被告人の本件メタノールの販賣行爲を昭和二一年六月六日頃から二七日頃までの間に行はれたものと認定したこと前段説明のとおりであるが、かくては右改正法規施行の前後に…
事件番号: 昭和23(れ)1199 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
原判決は被告人A及び同Bは、何れも「判示品物がメタノールであるとのはつきりした認識はなかつたが之を飮用に供すると身体に有害であるかも知れないと思つたにも拘らずいずれも飮用に供する目的で」之を所持し又は販賣した旨説示してゐるのである、右説示では被告人等は判示品物がメタノールであることは認識していなかつたというに歸し有毒飮…