一 有毒飮食物等取締令は憲法第三六條に違反しない。 二 有毒飮食物等取締令の刑が重いからと云つて憲法第一三條に違反するものではない。 三 有毒飮食物等取締令は裁判官に對して、良心に反する裁判を強うるもので憲法違反であるなどいうものではない。 四 有毒飮食物等取締令第四條第三項が勅令で刑法第六六條の適用を除外したからと云つて憲法に違反するものではない。
一 有毒飮食物等取締令の合憲性 二 有毒飮食物等取締令第四條第三項の合憲性
有毒飮食物等取締令1條,有毒飮食物等取締令4條,有毒飮食物等取締令4條1項,有毒飮食物等取締令4條3項,憲法36條,憲法13條,憲法76條3項,日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に關する法律1條の2,刑法8條,刑法66條
判旨
有毒飲食物等取締令の刑罰規定は、当時の社会情勢に鑑みた立法政策上の合理性があり、酌量減軽の規定を適用しないとしても憲法13条、31条、36条等に違反しない。
問題の所在(論点)
有毒飲食物等取締令が定める法定刑の重さ、及び刑法66条(酌量減軽)の適用を排除している点が、憲法13条(人権尊重・公共の福祉)、31条(罪刑法定主義)、36条(残虐な刑罰の禁止)に違反するか。
規範
刑罰の内容や程度は、原則として立法機関の裁量に委ねられる。当該刑罰が憲法に違反するか否かは、その刑が残虐(36条)といえるか、あるいは公共の福祉(13条)を著しく害する犯罪に対する抑止策として不当に人権を無視・軽視する過酷なものといえるかによって判断される。法定刑の幅が広く、その範囲内で情状を斟酌する余地があるならば、特定の減軽規定の不適用も立法政策の問題にすぎない。
重要事実
終戦直後の混乱期、メタノールを含有する有毒アルコール類の販売により死傷者が続出していた。これを受け、進駐軍司令部の指令に基づき、厳罰を課す「有毒飲食物等取締令」が制定された。同令は3年以上15年以下の懲役または罰金を定め、かつ刑法66条による酌量減軽の適用を認めないものであった。被告人は本令の刑罰規定が重すぎること、執行猶予の余地がないこと等が憲法に違反すると主張した。
事件番号: 昭和23(れ)743 / 裁判年月日: 昭和23年12月27日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令後段所定の過失犯に對する科刑の標準は故意犯の場合と同樣である。 二 有毒飮食物等取締令第四條が、故意犯と過失犯につき區別を設けず、過失犯にも體刑を科し得ると定めたことは、憲法第一三條に違反するものではない。 三 有毒飮食物等取締令第四條第一項に該る個々の事件について過失による犯行について罰金刑と體…
あてはめ
まず、本令の対象行為は多数の生命・身体を危うくするものであり、公共の福祉に著しく反する。次に、当時の深刻な毒物被害を防止するという急迫した必要性に基づき制定された本令が、平時を基準とする一般刑法より重い刑を課すことには合理的理由がある。さらに、本令の法定刑は「15年の懲役から2千円の罰金」まで非常に幅広く、裁判官は懲役が重すぎれば罰金を選択するなど、刑法66条の適用がなくとも事実上の情状斟酌が可能である。したがって、本令が人権を不当に無視する過酷なものとはいえない。
結論
本令の刑罰規定は、立法政策の合理的な範囲内のものであり、憲法13条、31条、36条、76条3項のいずれにも違反しない。
実務上の射程
法定刑の均衡や減軽規定の排除が争われる憲法問題において、立法裁量を広く認める初期のリーディングケースとして活用できる。特に「公共の福祉」による制約と、具体的妥当性を確保しうる「法定刑の幅」の存在を重視する論理構成は、現代の刑罰法規の違憲審査においても参考となる。
事件番号: 昭和25(あ)1736 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的・肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。法律の範囲内で量定された通常の刑は、被告人にとって重いとしても直ちにこれに当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件により起訴され、第一審裁判所が諸般の事情を考慮した上で、法律が定…
事件番号: 昭和28(あ)3180 / 裁判年月日: 昭和30年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律で許容された範囲内において事実審裁判所が量定した通常の刑罰は、憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」には該当しない。 第1 事案の概要:上告人は、事実審において言い渡された刑罰が重すぎるとして、これが憲法36条で禁止される「残虐な刑罰」に該当し、憲法違反であると主張して上告した。 第2 問題の所在(…
事件番号: 昭和23(れ)1199 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
原判決は被告人A及び同Bは、何れも「判示品物がメタノールであるとのはつきりした認識はなかつたが之を飮用に供すると身体に有害であるかも知れないと思つたにも拘らずいずれも飮用に供する目的で」之を所持し又は販賣した旨説示してゐるのである、右説示では被告人等は判示品物がメタノールであることは認識していなかつたというに歸し有毒飮…
事件番号: 昭和25(れ)561 / 裁判年月日: 昭和25年6月22日 / 結論: 棄却
一 憲法第三二條は、憲法又は法律に定められた裁判所以外の機關によつて裁判のされることのないことを保障したものであつて、訴訟法で定める管轄權を有する裁判所において裁判を受ける權利まで保障したものではない。(昭和二三年(れ)第五一二號同二四年三月二三日大法廷判決) 二 假りに訴訟法上事物管轄權を有する第一審裁判所が東京區裁…