一 昭和二一年六月十七日以前過失によりメタノールであることを知らないでメタノールを販売した行為は、有毒飲食物等取締令により処罰することができない。 二 原判決は、被告人の本件メタノールの販賣行爲を昭和二一年六月六日頃から二七日頃までの間に行はれたものと認定したこと前段説明のとおりであるが、かくては右改正法規施行の前後に亘るのであつて、若し右販賣行爲中改正法規の施行前に行はれたものがあるならばその行爲は、行爲時法に照して罪とならぬものと解しなければならない、右販賣行爲が右法規改正前に行はれたか、その後に行はれたかを確定しないで漫然右改正の前後に亘る期間を摘示してしかも、これに對して改正後の法規を適用した原判決は刑罰法規適用の基準となるべき犯罪時を確定せずして法規を適用した違法あるものと認めなければならない。
一 昭和二一年六月十七日以前過失によりメタノールを販売した行為と有毒飲食物等取締令 二 刑罰法規改正の以前か以後か犯罪の日時を確定しない判決の違法
昭和21年勅令52号有毒飲食物等取締令1条2項,昭和21年勅令325号有毒飲食物等取締令の一部を改正する勅令,有毒飲食物等取締令1條1項,有毒飲食物等取締令4條1項,舊有害飲食物等取締取締令1條
判旨
法律の改正により過失犯が新たに処罰対象となった場合、改正前後の期間にわたる行為について、改正前の行為を改正後の法規で処罰することは罪刑法定主義(不遡及の原則)に反し許されない。
問題の所在(論点)
法律改正により過失犯の処罰規定が新設された場合において、改正前後の期間にわたって行われた一連の行為に対し、犯罪日時を特定せずに改正後の法規を適用することの是非。
規範
刑罰法規の適用にあたっては、犯罪実行の時を明確に特定しなければならない。特に行為の途中で罰則が新設・変更された場合、新法が適用されるのは施行後の行為に限られ、施行前の行為については行為時法に基づき処罰の可否を判断すべきである(事後法の禁止)。
事件番号: 昭和23(れ)1199 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
原判決は被告人A及び同Bは、何れも「判示品物がメタノールであるとのはつきりした認識はなかつたが之を飮用に供すると身体に有害であるかも知れないと思つたにも拘らずいずれも飮用に供する目的で」之を所持し又は販賣した旨説示してゐるのである、右説示では被告人等は判示品物がメタノールであることは認識していなかつたというに歸し有毒飮…
重要事実
被告人は昭和21年6月6日頃から27日頃までの間、過失によりメタノールを含有する飲料を販売した。適用法規である有毒飲食物等取締令は、同年6月18日の改正施行により初めて過失犯の処罰規定が設けられた。原審は、被告人の販売行為が改正法の施行前後にわたっているにもかかわらず、販売時期を特定しないまま、全行為に対して改正後の罰則を適用して有罪とした。
あてはめ
本件販売行為は6月6日から27日の間にわたるが、過失犯を処罰する根拠となる改正法規が施行されたのは6月18日である。したがって、施行前(6月6日から17日まで)の行為は、当時の法規によれば罪とならない。原判決が改正前後の期間を漫然と摘示し、犯罪時を確定しないまま改正後の法規を適用したことは、刑罰法規適用の基準となるべき犯罪事実の確定を欠く違法があるといえる。
結論
犯罪実行の時を確定せず、法改正前の行為に対しても改正後の法規を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがあるため、破棄を免れない。
実務上の射程
憲法39条が規定する遡及処罰の禁止(罪刑法定主義)の具体化として、時系列に沿った事案の検討に用いる。特に、行為が継続している場合や数回にわたる場合に、法改正の前後で処罰の可否が分かれる場面において、犯罪日時の特定が必須であることを論証する際に有用である。
事件番号: 昭和23(れ)1197 / 裁判年月日: 昭和24年2月22日 / 結論: 破棄差戻
一 該品物がメタノールであるとのはつきりした認識なく、ただ身體に有害であるかも知れないと思つただけで有毒飲食物等取締令第一條違反の犯罪に對する未必の故意ありとはいい得ない。 二 原判決の認定した事實によれば被告人が原審相被告人等と本件メタノールを共同して購入したことは明らかであるが、本件メタノールを所持した事實及び販賣…
事件番号: 昭和24(れ)2864 / 裁判年月日: 昭和25年3月30日 / 結論: 破棄差戻
一 原判決が有毒飲食物等取締令犯の事實認定をし、これに對し刑法第六六條を適用したこと並びに有毒飲食物等取締令第四條第三項に同條第一項の罪を犯した者には刑法第六六條を適用しない旨規定していることは所論のとおりである。されば原判決が本件につき刑法第六六條を適用したことは法令適用の明白な錯誤であつて、判決に影響を及ぼすおそれ…
事件番号: 昭和26(あ)1377 / 裁判年月日: 昭和27年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有毒飲食物等取締令における「販売」の罪の成立に関し、メタノールを含有しないものと軽信した過失があり、かつ飲用に供するものであることを認識して販売した場合には、同令一条二項及び四条一項後段の罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、飲用に供する目的で販売した飲食物にメタノールが含有されていたにもか…
事件番号: 昭和23(れ)1167 / 裁判年月日: 昭和24年3月17日 / 結論: 棄却
一 本件アルコールは前述のごとく社會通念上飲食物というに足る外觀形態を與えられたものではないから、飲食物等取締令第一條第一項を適用すべき場合に該當しない。そして「飲食物に供する目的を以て」販賣した事實を認定し右第二項を適用したのは正當であつて違法はない。 二 論旨は被告人Aの諸事情「少くとも被告人Aがかかる注意義務を認…