一 右檢事聽取書は、被告人が警察署に任意に出頭した日より一五日を經た昭和二二年五月六日に作成されたものであるが、被告人が勾留されたのは、同年同月二日であるから、勾留された日から四日後に作成されたのであり、右檢事聽取書記載の被告人の供述は、不當に長く拘禁された後の自白であるということは當を得ない。 二 憲法第三七條に所謂[公平な裁判所の裁判」というのは裁判所の組織權限が偏頗や不公平のおそれのない裁判所の裁判を指すのであつて、個々の具體的の裁判を指すのでないことは、當裁判所の屡々判例とするところである。 三 被告人に対する検事の聴取書中の殺意があつたという自白と、被告人が公判廷において供述した被告者殺害の方法及び兇器の存在等を綜合して、被告人に殺意のあつたことを認定したのは、憲法第三八条第三項及び刑訴応急措置法第一〇条第三項に違反しない。 四 被告人の供述を録取した検事の聴取書を証拠としても差支えない。 五 刑訴應急措置法第一三條第二項は憲法違反のものでないということは當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第四三號同二三年三月一〇日判決參照)
一 勾留四日後に作成された檢事聽取書の記載と憲法第三八條第二項の不當に長く拘禁された後の自白 二 憲法第三七條にいわゆる「公平な裁判所の裁判」 三 殺意の認定と憲法第三八条第三項 四 被告人に対する検事の聴収書の証拠能力 五 刑訴應急措置法第一三條第二項の合憲性
憲法38條2項,憲法37條1項,憲法38条3項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴應急措置法13條2項,刑訴応急措置法10条3項,刑訴応急措置法12条,刑訴法343条
判旨
憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、裁判所の組織・構成において偏頗や不公平のおそれがないことを指し、個々の具体的な訴訟手続の当否を指すものではない。
問題の所在(論点)
裁判所による鑑定申請の却下や個々の具体的裁判の運用が、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」の原則に違反するか。
規範
憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、具体的事件において被告人に対し不公平な審判をするおそれがないような裁判所の組織・権限を意味する。したがって、特定の証拠申請を却下するなどの裁判所の訴訟指揮や、個々の具体的裁判における判断の内容が不当であるといった事由は、同条にいう「公平な裁判所」の違反を構成しない。
重要事実
被告人は殺人の疑いで起訴された。原審(控訴審)において被告人は、鑑定の申請を行ったが、裁判所は被告人の実母を証人として取り調べた結果、鑑定の必要なしと認めてこれを却下した。これに対し被告人側は、鑑定申請の却下は不親切かつ不公平であり、憲法37条1項が保障する公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害するものであるとして上告した。
あてはめ
本件において、原審が鑑定の申請を却下したのは、既に被告人の実母を証人として取り調べた結果に基づき、裁判所の自由裁量の範囲内で鑑定不要と判断したものである。被告人はこの措置を不公平と主張するが、憲法37条1項は裁判所の制度的・組織的な中立性を保障するものであり、裁判所が適法な裁量権の行使として特定の証拠調べを行わなかったことは、同条が禁じる偏頗な裁判所の構成には当たらない。
結論
原審の措置は、憲法37条1項に違反しない。鑑定申請を却下するか否かは裁判所の自由裁量に属し、その判断が直ちに裁判所の不公平性を意味するものではない。
実務上の射程
憲法37条1項の「公平な裁判所」を論じる際、裁判官の忌避等の制度的担保を説明する規範として確立している。答案上は、訴訟指揮や認定の誤りを主張する際に本条を持ち出すことは失当であり、あくまで組織的・構造的な不公平性に限定して適用すべきであることを示す際に有用である。
事件番号: 昭和27(あ)4733 / 裁判年月日: 昭和28年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、裁判所の組織構成において偏頗(偏り)が生じるおそれのない裁判所を指す。また、死刑制度は憲法に違反せず、これを規定する刑罰法規は合憲である。 第1 事案の概要:被告人は強盗致死罪等に問われ、死刑の判決を受けた。これに対し被告人側は、強盗の犯意の認定に関す…