一 憲法第三四條、第三七條等によれば、被告人は、自己の權利を擁護するため、辯護人に依頼する權利を憲法上確認保障されたのであるから、刑訴應急措置法第二條の規定により刑事訴訟法條上訴をするためにも資格を有する辯護人に依頼することができるものと解釋しなければならない。そして被告人は特に上訴をする依頼を爲す旨明示せざるも、自から上訴を爲さずして上訴審における辯護を辯護士たる辯護人に依頼したときは上訴をすることをも依頼したものと見るを相當とするから、かかる場合その辯護人は被告人を代理して被告人のため上訴をすることができるものといわねばならぬ。 二 被告人が特に上訴をする依頼を爲す旨明示せず、上訴審における辯護を辯護士たる辯護人に依頼した場合、辯護人が被告人を代理して被告人のため上訴するには、被告人の代理たる旨を明示することは必ずしも必要でない。
一 上訴審における辯護を依頼された辯護士は被告人を代理して上訴を爲し得るか 二 上訴審における辯護を依頼された辯護士が被告人を代理して上訴をする場合その代理の旨を明示することの要否
憲法34條,憲法37條,刑訴應急措置法2條,舊刑訴法376條,舊刑訴法379條
判旨
被告人が上訴審における弁護を弁護士に依頼した場合は、特段の明示がなくとも上訴の依頼も含まれると解され、その弁護士は被告人を代理して適法に上訴を申し立てることができる。
問題の所在(論点)
旧刑訴法379条(現行法355条、356条)に規定される「原審の弁護人」以外の弁護士が、被告人の依頼に基づき、被告人を代理して上訴を申し立てることができるか。また、その際「代理」の明示が必要か。
規範
被告人は憲法上、自己の権利擁護のため弁護人に依頼する権利を保障されている(憲法34条、37条等)。したがって、被告人が自ら上訴することなく、上訴審における弁護を弁護士に依頼したときは、特段の明示がない場合であっても、上訴することをも依頼したものと解するのが相当である。この場合、当該弁護士は被告人を代理して上訴をすることができ、その際、代理人である旨を明示することは必ずしも必要ではなく、弁護届や上訴状等の書類からその趣旨が看取できれば足りる。
重要事実
被告人は、第一審判決の言渡しを受けた翌日、弁護士との連署により、控訴審における弁護を依頼する旨の弁護届を第一審裁判所に提出した。同時に、当該弁護士は第一審判決に対する控訴状を同裁判所に提出した。原審は、当該弁護士が「原審における弁護人」ではないことを理由に、本件控訴の申立てを不適法として棄却した。
あてはめ
本件において被告人は、自ら上訴を行わず、弁護士と連署して控訴審の弁護を依頼する弁護届を提出している。これは、被告人が当該弁護士に対し、控訴審の弁護のみならず、その前提となる控訴の申立てをも依頼したものとみるのが相当である。提出された弁護届および控訴状という一連の書類により、当該弁護士が被告人を代理して被告人のために控訴を申し立てた趣旨は十分に看取できる。したがって、代理の明示が欠けていたとしても、本件控訴の申立ては適法な代理権の行使といえる。
結論
本件控訴の申立ては適法であり、これを不適法とした原判決は失当である。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟における弁護人の上訴権に関する重要判例である。現行法355条・356条の「原審の弁護人」に当たらない場合でも、被告人からの代理権授与(上訴審の弁護依頼)があれば、代理人として適法に上訴できることを示した。答案上は、弁護人の固有権と代理権を区別して論じる際の根拠となる。代理の明示(顕名)を不要とした点も実務上重要である。
事件番号: 昭和24新(れ)59 / 裁判年月日: 昭和24年12月12日 / 結論: 棄却
控訴判決において判斷されなかつた事項について第一審判決の瑕疵を理由として上告申立をすることはできない。