一 被告人の抑留中(論旨では勾留中といつて居るけれども原判決引用の各訊問調書は被告人等が現行犯手續により逮捕せられてから勾留状を執行せられる迄の間に出來たものである)における司法警察官の訊問調書の記載と公判廷における被告人陳述と異なる場合裁判所は刑事訴訟法第三四〇條による證據調をした上公判廷における陳述の模様態度其他事件に現われた總ての資料に照し司法警察官の訊問調書の記載の方が眞實に合するとの心證を得たときはこれを採ることは少しも差支ない。 二 現行法の下においては裁判所は起訴せられた事實に付て審判をするのであつて檢事の付けた罪名に拘束せられるものではない。記録によれば所論の點に付き起訴せられた事實は「被告人を賭博現行犯人と認めて追跡して來た、巡査Aに對し同所でその顱頂部を石を以て一回毆打し因つて同人に全治迄二週間を要する裂創を負擔はせ」という事實であることが明白だから公務執行妨害罪の要件たる事實は明白に起訴事實の中に含まれて居る其故原審は起訴なき事實に付いて裁判をしたのではないので何等違法ではない。 三 賭博の前科があること、二、三回續けて賭博をしたこと等其の他論旨に舉げて居る様な事實は其れ等が各獨立して一つ一つでは常習を認めるに不充分であることは論旨のいう通りであろう、しかし其れ等が加わり合うと其全體によつて常習を認めるに充分となる場合は無論あるので原審が本件各被告人に付き舉示した各資料を綜合して常習を認めたのは相當である、此場合必ずしも前科に付き其賭博が如何なるものであつたかを一々判示する必要はないし又株賭博の如き一般によく知られて居る賭博に付き其方法を詳細に判示する必要もない。被告人が一定の職業を有して居ることも常習を認める妨となるものではない。(大審院判例の場合は前科と犯行との間に長い年月の經過が有つたりなどして本件の場合と同様でない)上記の如く、裁判所は檢事の付けた罪名に拘束されるものではないから辯護人も初めから罪名等に關係なく起訴事實に付て防禦辯護を爲すべきものである、故に原審が起訴せられた事實に付て審判をしたものである限り所論の様な違法があるものとはいえない。
一 公判廷の供述と違う抑留中の被告人に對する司法警察官訊問調書の證據力 二 起訴の罪名と審判の範圍 三 賭博の常習性認定の一場合
刑訴法337條,刑訴法291條,刑訴法362條,刑法186條
判旨
裁判所は検察官が指定した罪名に拘束されず、起訴状に記載された事実の範囲内であれば、異なる罪名で処断することができる。また、刑法上の「常習性」の判断については、前科、犯行回数、職業の有無等の諸事情を総合して認定すべきである。
問題の所在(論点)
1. 検察官が指定した罪名と異なる罪名で裁判所が処断することは、起訴なき事実についての裁判として違法となるか。 2. 一定の職業を有していることや、個別の事実(前科や数回の犯行等)が単独で常習性を立証するに足りない場合、常習賭博罪の「常習」を認定できるか。
事件番号: 昭和27(あ)568 / 裁判年月日: 昭和28年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決において数個の犯罪事実を認定する際、証拠の標目を一括して掲げたとしても、判文と記録の照合により各事実を認めた証拠が明白であれば違法ではなく、また標目中の判示に沿わない部分は排除されたものと解される。 第1 事案の概要:被告人が複数の犯罪事実について起訴された事案において、原判決はそれぞれの事実…
規範
1. 裁判所の審判対象は起訴状に記載された具体的「事実」であり、検察官が付した「罪名」には拘束されない。したがって、被告人の防御権を侵害しない限り、起訴事実の範囲内で異なる罪名を適用できる。 2. 常習賭博罪における「常習」の認定は、賭博の前科、犯行の反復回数、犯行態様、職業の有無等の諸資料を総合的に考慮して判断すべきであり、個々の事実が単独で常習性を基礎付けるに足りない場合であっても、それらを全体として評価することで常習性を認めることができる。
重要事実
被告人らは、賭博の現行犯として追跡してきた巡査に対し、石で頭部を殴打し全治2週間の傷害を負わせた事実等により起訴された。検察官は特定の罪名を付して起訴したが、原審は公務執行妨害罪の要件を満たす事実が起訴事実に含まれているとして、同罪の成立を認めた。また、被告人らには賭博の前科があり、短期間に数回の賭博を繰り返していたが、一定の職業を有していたため、弁護人は常習性の認定を不当として上告した。
あてはめ
1. 記録によれば、公務執行妨害罪の構成要件たる「巡査の職務執行に対し暴行を加え傷害を負わせた」事実は、起訴状の記載内容に明白に含まれている。裁判所は検事の付した罪名に拘束されず、被告人も起訴事実自体について防御すべきものであるから、起訴事実の範囲内での罪名変更は適法である。 2. 常習性の判断において、賭博の前科、二・三回連続した犯行等の事実は、個々では不十分であっても、全体を総合すれば常習を認めるに足りる。被告人が一定の職業を有していることは、常習性の認定を直ちに妨げるものではない。
結論
1. 裁判所は検察官の罪名に拘束されず、起訴事実の範囲内で処断できるため、原審の判断に違法はない。 2. 諸事情を総合して常習性を認めた原審の判断は相当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における審判対象が「訴因(事実)」であることを示した初期の判例であり、罪名変更において必ずしも訴因変更手続を要するかという論点の基礎となる。刑法上の「常習性」については、前科や職業の有無といった属性だけでなく、当該犯行に至る経緯や回数を総合考慮する実務の運用を肯定している。
事件番号: 昭和23(れ)370 / 裁判年月日: 昭和23年7月29日 / 結論: 棄却
一 所謂賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖あるものをいうのであつて、必ずしも博徒又は遊人の類のみを指稱するものではない。 二 被告人が賭博罪で八幡濱區裁判所で、昭和一八年四月一六日罰金六〇圓に、同年一一月六日罰金一五〇圓に、昭和二一年二月二三日罰金八〇〇圓に各處せられ、更に昭和二二年八月二七日本件賭博罪を犯したとい…