昭和二三年二月二四日、米國第八軍司令部より發せられた日本の刀劍並びに銃砲の回収類別及び處分に關する日本政府内務省警保局長宛の覺書により、刀劍並びに銃砲の登録申請の受付及び處理は、同年六月一日迄延長されたことは所論の通りであるが、同覺書によれば、右延長期間中になすべき申請には昭和二一年勅令第三〇〇號に規定された本來の期間中に登録しなかつた事實に對する完全にして、且つ、簡明な釋明書を添えなければならないものであり都道府縣警察當局において、この釋明を眞正であり情状酌量すべきものと思料する場合には申請者に對し懲罰手段に出てはならないとするものであつて右覺書が内務省警保局長に宛てて發せられたものであり、右覺書に基いて前記勅令の改正等の措置が採られなかつたところから見れば右覺書は搜査機關に對する行政命令であつてもとより右勅令の効力を左右するものでなく同覺書にいわゆる懲罰手段(Disciplinary Action)に出てはならないとの趣旨は前記の事情のある場合には訴追に關する手續を見合わすべきことを命じたものであつて既に、前記勅令違反の罪により公訴を提起せられたものに對し、その公訴權を消滅せしめ、若しくは、一旦成立した犯罪の成否に影響を及ぼすものではないと解すべきである。
昭和二三年二月二四日米國第八軍司令部より日本政府内務省警保局長宛發せうれた「日本の刀劍並びに銃砲の回収、類別及び處分」に關する覺書の性質
銃砲等所持禁止令1條1項,銃砲等所持禁止令附則1項,銃砲等所持禁止令附則2項
判旨
占領軍の覚書による刀剣等登録期間の延長及び懲罰禁止の指示は、捜査機関に対する行政命令にすぎず、既に成立した犯罪の成否や公訴の効力に影響を及ぼすものではない。
問題の所在(論点)
占領軍の覚書に基づき延長された期間内に登録申請を行った場合、それ以前の届出欠如により成立した犯罪の成否や、既に提起されている公訴の効力に影響を及ぼすか(法令の改廃に準ずる効力が認められるか)。
規範
占領軍から日本政府宛に発せられた覚書に基づく措置であっても、それにより既存の勅令(法令)が改正されない限り、当該覚書は捜査機関に対する行政上の命令にとどまる。したがって、覚書に定められた「懲罰手段(disciplinary action)を講じてはならない」との趣旨は、一定の事由がある場合に訴追手続を見合わせるべきことを命じたものと解され、既に提起された公訴権を消滅させ、あるいは一旦成立した犯罪の成否を左右する法的効力を持つものではない。
事件番号: 昭和25(れ)1467 / 裁判年月日: 昭和25年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】銃砲等所持禁止令違反の罪が成立した後に発せられた行政命令(覚書)は、既存の処罰法令の効力を左右するものではなく、既に提起された公訴権や成立した罪の成否に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:被告人は昭和20年9月の復員時に上官から日本刀を譲り受け、所持が禁じられていることを認識しながら所持を継続し…
重要事実
被告人は、昭和21年勅令第300号(銃砲等所持禁止令)所定の本来の許可申請期間内に届出をせず、刀剣類15本を山小屋の天井裏に隠匿・所持していた。警察の捜査により発覚し起訴されたが、被告人は第二審継続中、米国第八軍司令部の覚書により延長された登録期間内に所定の届出を行った。弁護人は、この届出により犯罪が成立しなくなる、あるいは公訴権が消滅すると主張して上告した。
あてはめ
被告人は本来の期間内に届出を行わず、刀剣類を隠匿・所持していた以上、その時点で勅令違反の犯罪は成立している。本件覚書は内務省警保局長に宛てられた行政命令であり、これに基づく勅令の改正も行われていない。したがって、覚書の定める「懲罰の禁止」は訴追手続上の配慮を求めたものにすぎない。被告人が事後的に延長期間内で届出を行ったとしても、既に提起された公訴の効力が遡って消滅したり、成立済みの犯罪が否定されたりすることはない。原審が届出の結果を考慮せず有罪とした点に違法はない。
結論
被告人の届出は、既に提起された公訴の効力を左右せず、犯罪の成否にも影響しないため、被告人は有罪である。
実務上の射程
法令の改廃を伴わない行政通達や覚書等の外部的な指示が、実体法上の犯罪成立要件や手続法上の公訴権に直接の影響を与えないことを示す。司法試験においては、行政上の指示や運用指針の変化が刑罰法令の解釈・適用に及ぼす限界を確認する際の素材となる。
事件番号: 昭和23(れ)685 / 裁判年月日: 昭和23年11月2日 / 結論: 棄却
刀劍所持許可願書の提出を、昭和二一年勅令第三〇〇號に規定された本來の提出期間中になさず、その延長期間中になした場合に、本來の期間中に登録しなかつたことにつき相當の理由あることの釋明書が添えられてない場合には、申請者に對し懲罰手段に出ることは違法でないから、之に對し原審が懲役刑を科したことは適法な上告理由とならない。
事件番号: 昭和23(れ)1902 / 裁判年月日: 昭和24年5月14日 / 結論: 棄却
しかし所論覺書は、内務省警保局長に宛てたものであり、その趣旨は同覺書所定の要件を備えたものに對しては、訴追を見合わすべきことを命じたものであつて、既に銃砲所持禁止令違反の罪により公訴を提起されたものに對しその公訴權を消滅せしめ、若くは、一旦成立した犯罪の成否に影響を及ぼすものではないのである。(當裁判所昭和二三年(れ)…
事件番号: 昭和24(れ)1137 / 裁判年月日: 昭和24年9月29日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令第一條違反の犯罪は、所定の刀劍類を所持するを以て成立し、ただその所持當時同條但書の事由あるときはその犯罪の成立を阻却するに過ぎないものである。されば刀劍の所持當時同條但書所定の許可がない以上、たとい許可申請の意思がありしかも不可抗力的事情で許可申請をすることができなかつたといつて、犯意なしというない…
事件番号: 昭和22(れ)181 / 裁判年月日: 昭和23年4月17日 / 結論: 棄却
銃砲等所持禁止令の附則に、二ケ月(後に四ケ月)の期間をもうけたのは、第一條第一項に從つて、地方長官に許可を申請すべき期間を定めたもので、この期間經過の後は、許可の申請をすることもできないという趣旨であつて、この期間内の所持すべて適法ならしむるという意味でないことは、この勅令制定の趣意から考へて、容易に理解せらるゝところ…