一 昭和二二年法律第一二四號(刑法の一部を改正する法律)は刑法第五五條を削除したが同法律附則第四項により同法施行前の行爲については刑法第五五條の改正規定にかかわらずなお從前の例によることを定めておるのである。ところで被告人の本件犯罪行爲は右改正施行の日たる昭和二二年一一月一五日前に行われたものであつて公文書僞造の各所爲、同行使の各所爲及び詐欺の各所爲は夫々犯意繼續して行つたものであることは原判決の確定しておるところであるから前記附則第四項の規定により刑法第五五條を適用すべきものであることは言を俟たないのである。 二 原判決は法條の適用において刑法第五五條を示すに止まり前記昭和二二年法律第一二四號附則第四項を示さなかつたことは所論の通りであるが、刑法第五五條を適用したことは即ち附則第四項をも適用した趣旨であることは自ら明らかであつて直接の適用法條たる刑法第五五條を適用してある以上その根據となる右附則第四項の規定を判決に舉示しなかつたからといつて必ずしも右規定の適用を遺脱した違法があるということはできない。 三 原判旨によれば被告人は文書を僞造行使して詐欺を爲すこと數回に及んだもので各文書僞造行使詐欺の間には手段結果の牽連關係があると同時に數個の僞造文書行使の行爲と數個の詐欺の行爲は各連續關係にあるものであるから、かかる場合には刑法第五四條第五五條に依りこれを總括してその最も重い罪の刑によつて處斷するのが正當であつて右兩法條の適用の順序如何は法律の要求しておるところではない。 四 刑法第五四條の「最モ重キ刑ヲ以テ處斷ス」としたのは數個の行爲が包括的に最も重き刑を以て處斷されるという意味であつて輕い罪が重い罪に吸収されて獨立性を失うという意味でないことは所論の通りである。
一 昭和二二年法律第一二四號刑法の一部を改正する法律附則第四項と刑法第五五條 二 昭和二二年法律第一二四號附則第四項の規定を舉示しない判決と上告の適否 三 刑法第五四條第五五條の適用順序 四 刑法第五四條の「最モ重キ刑ヲ以テ處斷ス」の意義
昭和22年法律124號附則4項,刑法55條,刑法54條
判旨
複数の行為が連続犯(旧刑法55条)かつ牽連犯(54条1項後段)の関係にある場合、これらを総括して最も重い罪の刑で処断すべきであり、各条文を適用する順序は問われない。また、科刑上一罪として「最も重い刑で処断する」とは、包括的に処断されるという意味であり、軽い罪が重い罪に吸収され独立性を失うわけではない。
問題の所在(論点)
1. 連続犯と牽連犯が重畳する場合、判決書において各法条を適用する特定の順序が要求されるか。 2. 刑法54条等の「最も重い刑をもって処断する」という規定により、軽い罪は重い罪に吸収されて消滅するのか。
事件番号: 昭和41(あ)2440 / 裁判年月日: 昭和42年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書偽造罪、同行使罪および詐欺罪が順次に手段・結果の関係にある場合、これらは刑法54条1項後段により、一罪(牽連犯)として処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、私文書を偽造し(私文書偽造罪)、これを行使して(同行使罪)、人を欺いて財物を交付させた(詐欺罪)。第一審判決は、私文書偽造罪と…
規範
科刑上一罪(牽連犯・想像的競合)および旧連続犯の関係が重畳的に存在する場合、裁判所はこれらを包括して「最も重い刑」をもって処断すれば足り、その計算・適用プロセスの順序(例:連続犯として一罪とした後に牽連犯とするか、その逆か)は法律上限定されない。また、この処断は各罪の独立性を否定するものではなく、科刑上の評価を一本化するものである。
重要事実
被告人は、昭和22年の刑法改正(連続犯規定の削除)前において、公文書偽造、偽造公文書行使、および詐欺の行為を数回にわたり繰り返した。原審は、各文書偽造・行使・詐欺の間に手段結果の牽連関係を認め、かつ、それぞれの行為類型(偽造・行使・詐欺)ごとに犯意の継続(連続犯)を認め、刑法54条および55条を適用して最も重い偽造公文書行使罪の刑で処断した。弁護人は、改正法附則の挙示がない点や、連続犯と牽連犯が錯綜する場合の適用順序の不備、および軽い罪が消滅するかのような判示を違法として上告した。
あてはめ
まず、適用順序について、本件のように偽造・行使・詐欺の各行為が連続し、かつ各行為間に牽連関係がある複雑な事案では、54条と55条を総括して適用し、最も重い罪の刑で処断するのが正当である。法律は適用の先後関係まで求めていない。次に、処断刑の決定について、科刑上一罪として最も重い刑に従うのは、あくまで処罰の範囲を包括的に定める趣旨である。原判決が「偽造公文書行使の一罪とし」と表現したのは、軽い罪が独立性を失うという意味ではなく、包括的に処断する趣旨と解される。
結論
連続犯と牽連犯が重畳する場合、いずれの法条を先に適用しても結論に影響はなく適法である。また、科刑上一罪であっても、各罪の成立自体が否定されるものではない。
実務上の射程
現行刑法では連続犯(55条)は削除されているが、観念的競合と牽連犯(54条1項)が重畳する事案(例:住居侵入・窃盗・強盗致死が混在する場合)において、科刑上一罪の処理手法や「重い刑で処断する」ことの法的性質(吸収説ではなく、罪の成立は併存する)を理解するための基礎となる。
事件番号: 昭和26(れ)1557 / 裁判年月日: 昭和27年1月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の虚偽の転出証明書を用いた詐欺等の犯行について、実質的に単一の犯意に基づく一連の行為と認められる場合には、これらを包括して一罪と解することができる。また、共犯者間で宣告刑に差異が生じても、犯情の個別性に基づくものである限り、憲法14条の法の下の平等に反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、共…
事件番号: 昭和26(あ)1086 / 裁判年月日: 昭和27年11月11日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】複数の偽造公文書を一個の行為で一括して行使した場合、一個の行為で数個の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)が成立する。また、公文書偽造、同行使、及びこれに伴う詐欺行為の間には、手段と結果の関係が認められるため、牽連犯(同条1項後段)として処断される。 第1 事案の概要:被告人は、偽造された…
事件番号: 昭和28(あ)5680 / 裁判年月日: 昭和29年4月2日 / 結論: 棄却
一 本件犯罪と累犯の関係にある前科が数個あつても、前科相互間に刑法第五六条所定の条件を欠くときは、再犯であつて三犯ではない。 二 前科相互間に刑法第五六条所定の条件を欠くため、再犯であつて三犯でないにも拘らず、刑法第五九条を適用した違法があつても、その前科がいずれも本件犯罪と累犯の関係にある場合には、右の違法は、判決に…