刑法第一七七條にいわゆる暴行又は脅迫は相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであることを以て足りる。
刑法第一七七條の暴行又は脅迫の程度
刑法177條
判旨
強姦罪(刑法177条、現・不同意性交等罪)の成立要件である暴行または脅迫の程度は、相手方の抗拒を不能にするまでを要さず、抗拒を著しく困難ならしめる程度のもので足りる。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは偏頗な恐れのない組織的構成を指し、個別の誤判可能性を当然に含むものではない。
問題の所在(論点)
強姦罪の構成要件である「暴行又は脅迫」の程度として、被害者の抗拒を完全に不能にすること(抗拒不能)までが必要か。また、告訴の取下げや宥恕の事実が犯罪成立の認定を左右するか。
規範
刑法177条(当時の強姦罪、現・不同意性交等罪)にいう「暴行又は脅迫」とは、相手方の抗拒を不能にさせるまでを要するものではなく、相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであることをもって足りる。
重要事実
被告人が被害者に対し暴行脅迫を加えて性交した事実について、原審は強姦罪の成立を認めた。これに対し被告人側は、被害者が抗拒不能に陥った事実はなく、また被害者および親権者が告訴を取り下げ被告人を宥恕する上申書を提出していること等を理由に、事実誤認および擬律錯誤があるとして上告した。
あてはめ
強姦罪の保護法益は個人の性的自由にあるところ、暴行・脅迫の程度は相対的に判断されるべきである。本件において、被告人が被害者に加えた暴行脅迫は、相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであったことが証拠により十分に立証されている。被害者側が告訴を取り下げ宥恕の意思を示した事実は、既に成立した犯罪事実の認定を左右するものではなく、暴行・脅迫の程度の判断を妨げる理由とはならない。
結論
被告人の行為は強姦罪の構成要件を充足する。暴行・脅迫の程度は抗拒を著しく困難ならしめる程度で足りるため、原判決に擬律錯誤はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
不同意性交等罪(現行刑法177条)へと改正された現在でも、暴行・脅迫を用いる類型においてその程度を判断する際の古典的かつ重要な基準である。答案上は、本罪の暴行・脅迫が「抗拒を著しく困難にする程度」であることを示す際の規範として引用する。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」の意義(組織・構成の公平性)についても、憲法の論点として汎用性が高い。
事件番号: 昭和22(れ)178 / 裁判年月日: 昭和23年2月7日 / 結論: 棄却
強姦致傷罪については告訴の取消があつても公訴棄却の判決をなすべきではない。