第一審の公判前に提出された證據書類及び證據物は第二審においては必ずしも其の證據調をする必要のないことは大審院が繰り返し判例としていた處で、その變更の要を見ない。(大審院大正十四年(れ)第一六一七號同一五年六月十九日言渡判決、同院昭和一〇年(れ)一四六一號同一一年三月五日言渡判決参照)
第一審の公判前に提出された證據書類及び證據物を第二審において取調べることの要否
舊刑訴法342條
判旨
第一審の公判前に提出された証拠書類及び証拠物について、控訴審において必ずしも証拠調べを行う必要はない。また、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、裁判所の組織・構成において偏頗の恐れがない裁判所を指す。
問題の所在(論点)
1. 第一審の公判前に提出された証拠について、控訴審は必ず証拠調べを行う必要があるか。2. 裁判所の証拠の取捨選択が不当であることは、憲法37条1項の「公平な裁判所」による裁判を受ける権利を侵害するか。
規範
1. 証拠調べの必要性:第一審の公判前に提出された証拠書類及び証拠物は、控訴審において当然に証拠調べを要するものではなく、裁判所の裁量に属する。2. 公平な裁判所:憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、裁判所の組織構成等において偏頗(へんぱ)の恐れのない裁判所を意味する。
重要事実
被告人が第一審の量刑不当や事実誤認を主張して控訴・上告した事案。上告審において弁護人は、第一審の公判前に提出された証拠について控訴審が証拠調べを行わなかった点、および証拠の取捨選択が不当である点(憲法37条の公平な裁判所に反する点)を上告理由として主張した。
あてはめ
1. 証拠調べの要否について、大審院以来の判例によれば、第一審の公判前に提出済みの証拠書類等は、控訴審において重ねて証拠調べを行う必要はない。2. 憲法37条1項の趣旨について、本件で主張されるような裁判所の証拠の取捨選択という職務執行上の判断は、裁判所の組織的構成の偏頗性とは無関係である。したがって、証拠の取捨選択を理由に公平な裁判所ではないと非難することは当たらない。
結論
控訴審において第一審提出済みの証拠を調べなかったことは適法である。また、証拠の取捨選択は裁判所の専権であり、憲法37条1項違反にも該当しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における「公平な裁判所」の定義(組織構成上の偏頗のなさ)を示す重要判例である。答案上では、裁判官の忌避(刑訴法21条)や除斥の論点を論じる際の憲法的根拠の解釈として、あるいは証拠調べの裁量を論じる際の前提として活用される。ただし、本判決は旧刑事訴訟法下のものである点に注意が必要である。
事件番号: 昭和26(れ)1670 / 裁判年月日: 昭和26年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判が迅速を欠き憲法37条1項に違反したとしても、その理由のみによる破棄差戻しは裁判の進行を一層阻害し憲法の保障に矛盾するため、判決に影響を及ぼす事由には当たらない。また、公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項にいう補強証拠を必要とする自白には含まれない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件…
事件番号: 昭和25(あ)290 / 裁判年月日: 昭和25年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審は第一審の事後審としての性格を有し、第一審で証拠とすることができた証拠は当然に控訴審でも証拠とすることができる。したがって、控訴審が第一審の認定事実を判断する際、第一審で採用済みの証拠について改めて取調べの手続を行う必要はない。 第1 事案の概要:被告人が自白の補強証拠の欠如や、証拠能力のな…
事件番号: 昭和26(れ)713 / 裁判年月日: 昭和26年7月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の取捨選択や事実認定に関する非難、および量刑不当の主張は、刑事訴訟応急措置法13条2項に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決の証拠取捨選択および事実認定を非難し、あわせて量刑が不当であるとして上告を申し立てた事案。 第2 問題の所在(論点):原審の専権事項で…