一 A方二回は、本件犯行(日本銀行券預入令の特例の件違反)の一場所として説示したにすぎないものであつて罪となるべき事實ではないから、證據によつて之れを認定する必要はない。 二 日本銀行券預入令の特例の件第一條は、所論證紙の種類並に様式は大蔵大臣が之れを定める旨を規定し、同令に基く昭和二一年大蔵省告示第三〇號は證紙の種類と様式を定めているので、日本銀行券預入令の特例の件第一條所定の百圓證紙を偽造したと判示すれば、右告示第三〇號所定の百圓證紙を偽造したことを表示したものであることは明らかである。 三 偽造に要した材料は如何にして入手したかの點を判示しないからとて本件偽造罪の判示として缺くるところはない。 四 第一審公判調書によれば、裁判長は被告人に對し公判請求書の記載事實及び司法警察官の聴取書を読聞けたるところ被告人は其通り相違ないと供述した旨を記載しているが、右公判請求書記載事實並に右聴取書記載事實を記載してないことは所論の通りである。公判調書はできる限り詳細に記載することは望ましいことであるが、本件第一審公判調書についていえば、右公判請求書と右聴取書を一読すれば被告人の第一審公判における供述内容は明らかとなるのであり、且其供述内容は原判決に判示した事實と照應するものであること記録上明白であるから原判決において第一審公判調書を證據として舉示した以上は、重ねて右公判請求書並に右聴取書を舉示しないからとて採證法則の違背とはいえない。 五 假にBが情を知らなかつた爲所謂間接正犯となるとしても、被告人の爲したる正犯の本質については何等差異のあるはづはないから、Bが情を知つて居たか否かについて何等の説示をしないからとて、所論の如き判斷遺脱の違法はない。
一 犯罪の場所についての證據説示の要否 二 日本銀行券預入令の特例の件に基く大蔵省告示所定の證紙偽造につき日本銀行券預入令の特例の件第一條所定の證紙を偽造したと判示したことの正否 三 日本銀行券證紙偽造罪について材料入手の方法の判示の要否 四 原審が第一審公判調書中の被告人の供述記載を證據として舉示しながら右供述の内容をなす公判請求書及び聴取書の記載を舉示しなかつたことの正否 五 間接正犯の場合における被用者の知情の有無と利用者の責任
舊刑訴法360條1項,日本銀行券預入令の特例の件1條,昭和21年大蔵省告示30號,刑法38條1項,刑法60條
判旨
2人以上の者が犯罪を共謀し、そのうちの一部が実行行為に及んだ場合、実行行為に加担しなかった者も共同正犯としての罪責を負う(共謀共同正犯の成立)。また、他人に実行行為をさせた場合、相手方が情を知らない道具(間接正犯)であっても、正犯としての性質に差異はなく共同正犯が成立し得る。
問題の所在(論点)
実行行為に直接加担していない共謀者に刑法60条の共同正犯が成立するか。また、実行行為者が情を知らない等の理由で間接正犯の形態をとる可能性がある場合、共謀者の罪責に影響があるか。
規範
二人以上の者が犯罪を共謀し、かつこれを実行した場合においては、共謀者中のある者が実行行為に加担しない場合であっても、共同正犯の罪責を免れない。また、他人を介して犯罪を実現する場合、その介在者が情を知っているか否か(間接正犯か否か)は、共謀に基づき実行に関与した被告人の正犯としての本質に影響を及ぼさない。
重要事実
被告人は、他の共犯者らと共に、日本銀行券預入令の特例に基づく百円証紙を偽造することを共謀した。被告人自身は証紙の直接的な印刷行為(実行行為)には携わらなかったが、銅板作成を他人に依頼するなど、共謀に基づき役割を果たした。また、印刷を依頼されたBが、偽造の事実を知っていたか否かについては明確に認定されなかったが、原審は被告人らを偽造罪の共同正犯として処断した。
あてはめ
被告人は他の相被告人らと本件証紙の偽造を共謀し、その計画に基づき、Dをして偽造に必要な銅板を作成させるなど、犯罪実現に不可欠な役割を担っている。たとえ被告人自身が印刷等の中心的な実行行為に加担していなくとも、共謀に基づき犯罪が実行された以上、共同正犯としての責任を負うべきである。また、印刷を行ったBが情を知らない「道具」であったとしても、被告人が自己の犯罪として実行させた以上、正犯としての性質は変わらず、共同正犯の成立を妨げるものではない。
結論
被告人は実行行為への直接の加担がなくても、共謀に基づき他の者が実行した以上、共同正犯の罪責を負う。原判決に擬律錯誤や理由不備はなく、有罪とした判断は正当である。
実務上の射程
共謀共同正犯の成立を認めた最初期の重要判例である。司法試験においては、現場に不在の共謀者や、他人に指示を出した黒幕的立場の者の正犯性を論じる際、刑法60条の「共同して犯罪を実行した」の解釈として本判例のロジックを用いる。実行行為の有無を問わず、共謀の事実とそれに基づく実行があれば正犯性が認められる点に射程がある。
事件番号: 昭和27(れ)172 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】通貨偽造罪(刑法148条1項)とその行使罪(同条2項)の間には、手段と結果の関係があるため、刑法54条1項後段に基づき、牽連犯として科刑上一罪となる。 第1 事案の概要:被告人Aは、日本銀行券預入令等の特別法に違反して旧券の授受、証紙の偽造及び交付等を行った。さらに、他者と共謀して通貨を偽造し(通…
事件番号: 昭和26(れ)121 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の者が共謀の上、正犯に犯罪を実行させるための方策を講じた場合、直接の実行行為を行わない者であっても、共同して幇助の罪責を負う(共同幇助)。 第1 事案の概要:被告人両名は、Aほか2名と共謀した上で、偽造された公文書である引揚証明書を、その情を知っているBに対して売り渡した。その後、Bは当該証明…
事件番号: 昭和22(れ)118 / 裁判年月日: 昭和22年12月17日 / 結論: 棄却
正規の手續によらないで入手した證紙を舊圓紙幣に貼附し、限度額を超えて新圓紙幣とみなされるものを作成するときは、通貨僞造罪が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)2967 / 裁判年月日: 昭和30年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成否に関し、特定の犯罪について共謀の事実があった以上、共謀者の一人が実行行為を自ら分担しなかったとしても、共同正犯としての罪責を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人は、特定の犯罪計画に関する謀議に参与した。しかし、実際の実行段階において、被告人自身は実行行為を分担していな…