一 刑の執行を猶豫すべき情状の有無に關する理由は判決にその判斷を示すことを要する事項ではなく、またその証據理由を示す必要もないところであるが、刑の執行を猶豫すべき情状の有無と雖も、必ず適法なる證據にもとずいて、判斷しなければならぬことは所論のとおりである。ただこの情状に屬する事項の判斷については、犯罪を構成する事實に關する判斷と異り、必ずしも刑事訴訟法に定められた一定の法式に從い證據調を經た證據にのみよる必要はない。たとえば公判において舊刑事訴訟法第三四〇條の手続を履踐しない上申書の類のごときものでも、これを採つて、或は被告人の素行性格等を認め、或は被害辨償の事實を認定して、これを刑の執行を猶豫すべき情状ありや否やの判斷に資することは毫も差しつかえないところである。 二 共同被告人の供述は、いわゆる自白の補強證據となり得るものであることは、既に當裁判所の判例の示すところである。
一 刑の執行猶豫の情状の有無についての證據と取調べの要否 二 共同被告人の自白は補強證據となり得るか
刑法25條,刑訴法336條,憲法38條3項,刑訴應急措置法10條3項
判旨
刑の執行を猶予すべき情状の有無に関する事実は、厳格な証明を要する「犯罪を構成する事実」とは異なり、刑事訴訟法に定められた一定の方式に従った証拠調べを経た証拠によらなくても、適法な証拠に基づき判断すれば足りる。公知の事実や上申書の類も情状判断の資料とすることができ、判決にその判断の理由や証拠を詳細に示す必要はない。
問題の所在(論点)
刑の執行を猶予すべき情状の認定において、刑事訴訟法上の厳格な証拠調べを経た証拠のみに基づく必要があるか。また、判決にその情状認定の証拠理由を示す必要があるか。
規範
刑の執行を猶予すべき情状の有無については、必ず適法な証拠に基づいて判断しなければならないが、犯罪構成事実とは異なり、刑事訴訟法に定める厳格な証拠調べの手続を経た証拠のみによる必要はない(自由な証明で足りる)。具体的には、被告人の素行や性格、被害弁償の有無などの情状に関わる事項は、適法な証拠調べを経ていない書面や、裁判所に公知の事実を資料として認定することも許容される。
重要事実
被告人に対し、刑の執行を猶予しないこととした原判決の判断において、適法な証拠調べの手続を経ていない証拠や、当時の食糧事情が好転しつつあったという公知の事実に基づき情状が認定されていた。これに対し弁護人が、原判決は証拠によらずに事実を認定した違法があるとして上告した事案である。
あてはめ
執行猶予の情状は、犯罪構成事実と異なり、上申書の類や被告人の性格・素行等に関する資料を幅広く考慮できる。本件において、原審が食糧事情を「公知の事実」として判断した点や、一件記録上認定可能な事実に依拠した点は、適法な証拠に基づくものといえる。また、執行猶予の情状は判決に理由や証拠理由を示すことを要しない事項であるため、詳細な証拠上の説明を欠いていても直ちに違法とはならない。
結論
執行猶予の情状判断は自由な証明で足り、厳格な証拠調べを経ない資料や公知の事実に基づき判断しても違法ではない。上告棄却。
実務上の射程
刑事訴訟法における「厳格な証明」と「自由な証明」の区別に関する基本判例として重要である。実務上、科刑の基礎となる「刑の加重減免の事由」や「執行猶予の情状」については自由な証明で足りることを論証する際に引用する。ただし、被告人に不利益な情状の認定であっても、最低限「適法な証拠(資料)」に基づく必要がある点には留意すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)2181 / 裁判年月日: 昭和32年6月18日 / 結論: 棄却
刑訴四四条一項にいう「裁判の理由」とは、主文のよつて生ずる理由を指すのであつて、証拠上の理由のごときはこれに含まれないと解すべきであるから、有罪判決において、所論のように、何故にある証拠を採用し他の証拠を排斥したかの理由、あるいは採用した証拠の証明力の判断について必しも一々これを判示することを要するものではない。
事件番号: 昭和26(あ)5070 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の公判供述や記録上の前科調書に基づき情状事実を認定することは、憲法31条が要求する適正手続に反するものではなく、証拠によらない認定との非難は当たらない。 第1 事案の概要:被告人は食糧管理法違反等の罪で起訴された。原審は情状事実の認定に際し、被告人が第一回公判期日において「二回罰金を受けまし…