一 青酸加里を入れて炊いた本件米飯が黄色を呈し臭気を放つているからといつて何人もこれを食べることは絶對にないと斷定することは實驗則上これを肯認し得ない。 二 かかる不能犯の主張は行爲と結果との因果關係を不能なりとするものであるから行爲の外結果の發生を犯罪の積極的構成要件とする本件殺人罪においては結局罪となるべき事實を否定する主張に歸着する。されば舊刑訴法第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事實上の主張」換言すれば、犯罪構成要件以外の事實であつてその事實あるがため法律上犯罪不成立に歸すべき原由たる事實上の主張に該當しない。
一 青酸加里を入れて炊いたため黄色を呈し臭気を放つている米飯は何人もこれを食べることは絶對にないという實驗則の有無 二 殺人罪に關する不能犯の主張と舊刑訴法第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ原由タル事實上ノ主張」
舊刑訴法360條2項
判旨
殺人罪において、毒物の投入により結果発生の可能性が客観的に否定できない以上、たとえ米飯の変色や異臭が生じ得るとしても直ちに不能犯とはならず、殺人未遂罪が成立する。
問題の所在(論点)
青酸カリを炊飯釜に投入する行為が、米飯の変色や異臭により実際には食される可能性が低い場合であっても、殺人未遂罪としての「実行の着手」が認められるか、あるいは不能犯として不可罰となるか。
規範
実行の着手が認められる行為であっても、結果発生の可能性が客観的に全く欠如している場合には不能犯として不可罰となる。しかし、普通に考えられない特異な状況を除き、行為の性質上、結果発生の危険性が実験則上否定されない限り、不能犯とは解されない。
重要事実
被告人は、殺意をもって、食事に供するために準備されていた炊飯釜の中に、大型の梅干し大の青酸カリ一片を投入した。弁護人は、暗い場所で食事をすることは通常あり得ず、また青酸カリを投入した米飯は黄色く変色し異臭を放つため、他人がこれを食べることは絶対にないとして、殺人罪の実行は不可能(不能犯)であると主張した。
あてはめ
まず、暗い場所で食事を摂ることは「普通考えられないこと」とは断定できない。また、青酸カリによって米飯が変色し臭気を放つとしても、それによって「何人もこれを食べることは絶対にない」と断定することは実験則上困難である。したがって、毒物の投入という行為によって死亡の結果が発生する客観的危険性は否定されず、因果関係の形成は可能であると解される。
結論
被告人の行為は不能犯には当たらず、殺人未遂罪の成立を認めた原判決に違法はない。
実務上の射程
不能犯と未遂罪の区別に関する初期の判例である。結果発生の「絶対的不可能」を基準とする客観的説に近い立場を示しており、答案上は実行の着手における「危険性」の判断において、具体的状況下での結果発生の蓋然性を肯定する文脈で活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)4644 / 裁判年月日: 昭和28年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白と補強証拠を相俟って、全体として犯罪構成要件たる事実を認定できる場合、自白の各部分について個別に補強証拠を必要とするものではない。 第1 事案の概要:被告人が特定の犯罪事実について自白したが、弁護側はその自白の各部分について個別の補強証拠が欠けているとして違憲を主張し、上告した事案。具…
事件番号: 昭和28(あ)3616 / 裁判年月日: 昭和33年9月16日 / 結論: 棄却
いわゆる火焔瓶を乗用自動車に投げつけ、これに命中破壊させたが、右自動車の運転台座席覆布の一部を焼燬したにとどまり、火炎瓶の火が自動車に燃え移り独立燃焼の程度に達しないときは、刑法第一一〇条の放火罪は成立しない。