一 罪となるべき事實とは、刑罰法令各本條における犯罪の構成要件に該當する具體的事實というものであるから、該事實を判決書に判示するには、その各本條の構成要件に該當すべき具體的事實を該構成要件に該當するか否かを判定するに足る程度に具体的に明白にし、かくしてその各本條を適用する事實上の根據を確認し得られるようにするを以て足るものというべく、必ずしもそれ以上更にその構成要件の内容を一層精密に説示しなければならぬものではないといわねばならぬ。 二 「被告人等は外數名と共に花札を使用し、金銭を賭け俗にコイコイ又は後先と稱する賭博を爲したものである。」と判示したのであるからその判示は、當該行爲が同罪の構成要素たる「財物」に該當する金銭であること並びに他の構成要素たる「偶然の勝敗を決すべき博戯」に該當する俗にコイコイ又は後先と稱する數名の當事者が花札を使用して勝敗を爭う博戯であることを明白にしているものと言うべく、從つてその判示を以て前示法條を適用する事實上の根據を確認せしめるに足るものとするに妨げない。 三 舊刑訴第三六〇條第一項は、同第四九條第一項所定の裁判の理由を有罪判決の理由において具體的に示すべき最小限度の要件を規定したもので、裁判の理由には、罪となるべき事實の外主文の因て生ずる量刑の事由をも示すを妥當とすべきこと勿論である。されば、有罪判決の理由には罪となるべき事實の外犯罪の原因、動機、手段の特殊性、結果の輕重等をも判示するを相當とすべく、本件のごとき賭博罪にあつては時として、財物の種類、數額、賭博方法の詳細勝敗の回數、結果等をも判示するを適當とすることがある。殊に常習賭博においては、賭金の數額、手段方法の如何、勝負の回數結果等によつて常習を認定判示し得べき場合あることを忘れてはならない。しかし、これらの判示方法はいずれも妥當の問題であつて違法の問題ではない。
一 罪となるべき事實判示の具體性の程度 二 俗にコイコイ又は後先と稱する賭博判示の方法 三 有罪判決の理由判示の程度と賭博罪
舊刑訴法360條1項,刑法185條
判旨
有罪判決における「罪となるべき事実」の判示は、構成要件に該当するかを判定できる程度に具体的であれば足り、賭博罪において賭金の額や具体的な方法を詳述しなくても、法令適用の根拠として必要十分である。
問題の所在(論点)
有罪判決の理由に記載すべき「罪となるべき事実」として、賭博罪において、賭金の額や詳細な博戯の方法までを判示する必要があるか(理由不備の有無)。
規範
有罪判決において判示すべき「罪となるべき事実」(刑訴法335条1項、旧刑訴360条1項)とは、刑罰法令の構成要件に該当する具体的事実をいう。その程度は、当該事実が構成要件に該当するか否かを判定するに足り、かつ法令を適用する事実上の根拠を確認し得る程度に具体的に明白にすれば足りる。必ずしも、構成要件の内容を一層精密に説示することや、犯罪の原因、動機、手段の特殊性等の量刑上の事情までを判示することは、違法の問題(理由不備)として要求されるものではない。
重要事実
被告人等3名は、他の数名と共に花札を使用し、金銭を賭けて「コイ々々」または「後先」と称する博戯を行ったとして常習賭博罪で起訴された。原判決は、罪となるべき事実として、被告人らが花札を使用し、金銭を賭け、俗称「コイ々々」等を行った旨を判示したが、賭けられた金銭の具体的な種類や額、あるいは博戯の細かな手段方法については詳細な記述を欠いていた。これに対し被告人側は、判示が不十分であり理由不備の違法があるとして上告した。
あてはめ
常習賭博罪(刑法186条1項、185条)の構成要件は「偶然の勝敗に関し財物を以て博戯又は賭事をする」ことである。本件原判決は、①「金銭」を賭けた点から「財物」該当性を、②「花札を使用し俗にコイ々々又は後先と称する博戯」を行った点から「偶然の勝敗を決すべき博戯」該当性をそれぞれ明白にしている。これらは当該行為が同罪の構成要件に該当するかを判定するに足りる具体的な事実であり、法令適用の根拠を確認できる。賭金の額や具体的な勝敗の回数等は、常習性の認定や量刑上は考慮されるべき事情ではあるが、構成要件該当性の判断に不可欠な「罪となるべき事実」の最小限度の要件を画するものではない。
結論
原判決の判示は法令適用の根拠を明白にしており、賭金の額や詳細な手法の記載がなくても理由不備の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
刑事訴訟法335条1項の「罪となるべき事実」の程度に関するリーディングケースである。答案上は、構成要件要素に対応する事実が特定されているかを検討する際の基準として用いる。特に賭博罪に限らず、他罪種においても「法令適用の根拠を確認し得る程度」というフレーズは、判示の特定性を論じる際の標準的な規範となる。
事件番号: 昭和23(れ)1325 / 裁判年月日: 昭和24年2月24日 / 結論: 棄却
刑法第一八六條第一項に所謂賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖のあるものをいう立法趣旨であつて、必ずしも賭博を渡世とする博徒の類のみを指すものではない。又かかる習癖のあるものである以上たといそのものが正業を有しているとしてもその一事を以て直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである。