刑訴法第二九條そのものを所論のように憲法第一五條第二項の精神ないし憲法前文の精神に違反するものと論じ去ることはできない。
刑訴法第二九條と憲法第一五條第二項
刑訴法29條,憲法15條2項
判旨
訴訟遅延のみを目的とすることが明白な忌避申立てを、忌避された裁判官自らが関与する裁判体で却下できるとする刑訴法29条の規定は、裁判の公正を害するおそれが乏しく、迅速な裁判の要請にかなうため、憲法15条2項等に違反しない。
問題の所在(論点)
訴訟遅延のみを目的とすることが明白な忌避申立てについて、忌避された裁判官が自ら却下決定に関与できると定める刑事訴訟法29条の合憲性(憲法15条2項等への適合性)。
規範
忌避申立てが訴訟遅延のみを目的とすることが明白な場合、それは権利の濫用であって、実質的には忌避理由の存否ではなく訴訟進行の阻害事由の存否を判断するものに過ぎない。したがって、忌避された裁判官が当該却下決定に関与しても裁判の公正を疑わせるおそれは乏しく、公益上の要請である迅速な訴訟進行のために認められる。
重要事実
再抗告人は、刑訴法29条に基づき忌避された裁判官が自ら却下決定に関与できる制度について、裁判官が理由を仮装して正当な忌避申立てを排除することを可能にするものであり、官僚の横暴を招き憲法15条2項(公務員の奉仕者性)や憲法前文の精神に違反すると主張して、本件の忌避申立て却下決定に対して再抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和33(し)85 / 裁判年月日: 昭和33年12月15日 / 結論: 棄却
一 裁判官忌避申立却下決定の成立後、その送達前に、その決定をした裁判官を忌避する申立があつても、右決定は、訴訟法上適法に構成された裁判所の裁判たる性質を失うものではない。 二 刑訴第二三条にいう「その裁判官所属の裁判所が、決定を」するというのは、忌避された裁判官所属の裁判所の裁判官をもつて構成される、訴訟法上の意味の裁…
あてはめ
刑訴法29条は、却下の要件を「訴訟遅延目的のみであることが明白」な場合に限定している。この場合、裁判の公正を疑うべき実質的な理由は存在せず、むしろ訴訟指揮権の作用として迅速な裁判を実現すべき職責の遂行を優先すべきである。仮に不当な却下があったとしても、刑訴法31条等の不服申立手段により是正が可能であり、規定自体が違憲となるものではない。したがって、本件における同条の適用は、裁判官の奉仕者性に反するものではない。
結論
刑事訴訟法29条は憲法15条2項及び憲法前文に違反せず、合憲である。本件再抗告は理由がないため棄却される。
実務上の射程
忌避制度の濫用に対する簡易却下(自ら却下)の合憲性を基礎付ける重要判例である。答案上は、弁護人が訴訟遅延のために忌避を申し立てた事案において、迅速な裁判の要請(憲法37条1項)と公正な裁判の要請を比較衡量する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和43(し)102 / 裁判年月日: 昭和43年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官について不公平な裁判をするおそれがあるとは認められないとした原決定の判断に違法はない。したがって、不公平な裁判官を忌避できなかったとする憲法37条1項違反の主張は前提を欠き、抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:被告人が、担当の3名の裁判官について「不公平な裁判をするおそれがある」として…
事件番号: 昭和43(し)19 / 裁判年月日: 昭和43年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】忌避申立事件の原審裁判所が、特定の部(民事部等)によって構成されていること自体は、直ちに不適法となるものではない。 第1 事案の概要:抗告人は裁判官に対する忌避申立を行ったが、これに対する異議申立を棄却した原裁判所が名古屋高等裁判所の民事第三部であった。抗告人は、刑事事件に関連する手続(忌避)にお…
事件番号: 昭和28(し)98 / 裁判年月日: 昭和29年1月16日 / 結論: 棄却
所論は法廷警察権の行使方法が法令に違反するということを前提とし、忌避の理由がある旨主張するに止まり、この点に関する原決定の判断は正当であるから、所論は憲法の各条規に違反するという前提を欠く。註。原決定は法廷警察権の行使に対しても刑訴三〇九条二項の異議を申し立てることができるが、この判断を誤つたからといつて忌避の理由あり…
事件番号: 昭和29(し)6 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避申立てが訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合には、当該申立ては不適法として退けられるべきである。 第1 事案の概要:本件において、特別抗告人は裁判長による期日の指定に関する措置に不服があるとして裁判官の忌避を申し立てた。原決定は、当該期日指定の措置は妥当であり、不公平…