一 假りに所論食糧管理法の規定では、同法の目的達成に相當でなく、從つて憲法第二五後條所定の生活權を擁護するに充分でないとしても、かかる主張は、立法不備の非難たるに止まり、現存する食糧管理法をして、その目的を同じくする憲法第二五條の規定に低觸せしめ、惹いてその條規に適合しない違憲立法たらしめる理由となるものでない。 二 政府の主食糧配給處分が假りに所論第二のごとく、憲法違反であるとしても、その處分の如何は、原判決に何等影響を及ぼすものでないこと明白である。從つて、本件刑事判決における上告理由として、これが行政處分の取消を求めることは全く筋違いであつて、上告適法の理由とならない。 三 原判決の事實認定の手續が憲法第三八條、刑訴應急措置法第一〇條各第三項に違反するという主張は、飛躍上告適法の理由とならない。(裁判官眞理毅の少數意見がある) 四 審理不盡理由不備の論旨は、飛躍上告適法の理由とならない。 五 當事者において、或る法令が憲法に適合しない旨の主張をした場合に裁判所が有罪判決の理由中にその適用を舉示したときは、すなわち、その法令は憲法に適合するとの判斷を示したものに外ならないと見るを相當する。
一 食糧管理法の合憲性 二 政府の食糧配給處分の取消請求と上告理由 三 原判決の事實認定の手續が憲法第三八條、刑訴應急措置法第一〇條各第三項に違反するという主張と飛躍上告理由 四 審理不盡理由不備の主張と飛躍上告理由 五 違憲の主張のあつた法令の適用を舉示した場合とその法令の合憲性に關する判斷判事の有無
食糧管理法9條31條,憲法25條1項,憲法第81條,憲法38條3項,憲法81條,刑訴法411條,刑訴法416條,刑訴法360條1項,行政事件訴訟特例法1條,刑訴應急措置法10條3項
判旨
憲法25条は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有することを規定しているが、これに適合するための具体的な立法手段の不備は、直ちに当該法律を違憲とする理由にはならない。食糧管理法による配給統制は、国民全般の生活を安定確保する目的を有しており、憲法25条に違反するものではない。
問題の所在(論点)
食糧管理法による主要食糧の配給統制や、その目的達成のための規定の不備が、憲法25条の規定する生存権を侵害し違憲となるか。
規範
憲法25条の規定は、国民の生活権を保障するものである。法律がその目的達成のために不十分である、あるいは運用上不備があるとしても、そのことは直ちに当該法律を憲法25条に抵触させ、違憲な立法とする理由にはならない。
重要事実
被告人は、食糧管理法に基づく主要食糧の配給統制に違反したとして起訴された。これに対し被告人側は、同法の規定では国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を十分に擁護することができないため、同法は憲法25条に違反し無効であると主張して、飛躍上告を申し立てた。
あてはめ
食糧管理法は、国民食糧の確保と国民経済の安定を図り、需給・価格の調整および配給統制を行うことを目的としている。これは公共の福祉、すなわち国民全般の経済生活を安定確保するためのものである。同法は、生産者から余剰食糧を供出させ、これを消費者に可能な限り多く配給することを基本方針としており、消費者の生命や生活を保障する側面を持つ。仮に同法の規定が生存権を擁護する手段として不十分であったとしても、それは立法不備の非難に留まるものであり、憲法25条の趣旨と目的を同じくする同法を違憲とする根拠にはならない。
結論
食糧管理法は憲法25条の生活権を害するものではなく、むしろこれを擁護する立法である。したがって、同法は憲法25条に違反しない。
実務上の射程
生存権(25条)のプログラム規定説的な性格を初期に示した判例の一つである。後の堀木訴訟等で確立される「立法府の広い裁量」を直接的に認める表現ではないが、立法の不備が直ちに違憲を導かないとする点で、司法審査の抑制的な姿勢を示しており、プログラム規定説的アプローチを論じる際の基礎となる。
事件番号: 昭和23(れ)205 / 裁判年月日: 昭和23年9月29日 / 結論: 棄却
憲法第二五條第一項は、すべての國民が健康で文化的な最低限度の生活を營み得るよう國政を運營すべきことを國家の責務として宣言したものである。すなわち國民は、國民一般に對して概括的にかかる責務を負擔しこれを國政上の任務としたのであるけれども、個々の國民に對して具體的にかかる義務を有するものではない。されば、上告人が、右憲法の…