一 刑事訴訟法第三六〇條第二項にいう法律上犯罪の成立を阻却すべき原由とは例へば刑法第三五條乃至第三七條所定の事由の如き刑法第二編各條所定の罪の構成要件は一應これを具備して居ながら尚罪の成立を阻却する事由をいうので所論の様な罪の構成要件を缺く旨の主張は前記法條所定の主張に該當しない。 二 控訴の唯一の理由であればどんな主張でも必ずこれに對する判斷を判文中に明示しなければならないという法規も法理も存在しない。されば控訴審が罪の成立に何等影響の無い事柄に付き判斷を示さなかつたことは假令それが控訴の唯一の理由であつたとしても少しも違法ではない、無論違憲などいう問題ではない。 三 憲法第三七條の「公平な裁判所の裁判」というのは構成其他において偏頗の惧なき裁判所の裁判という意味である。かかる裁判所の裁判である以上個々の事件において法律の誤解又は事實の誤認等により偶々被告人に不利益な裁判がなされてもそれが一々同條に觸れる違憲の裁判になるというものではない。されば本件判決裁判所が構成其他において偏頗の惧ある裁判所であつたことが主張立證せられない限り假令原判決に所論の様な法律の誤解、事實の誤認又は記録調査の不充分等があつたと假定しても同條違反の裁判とはいえない。
一 刑事訴訟法第三六〇條第二項の法意 二 控訴の唯一の理由とこれに對する判斷の要否 三 憲法第三七條第一項にいう「公平な裁判所の裁判」の意義
刑訴法360條2項,刑訴法360條,刑訴法407條,憲法37條1項
判旨
公務員が、他人の作成した文書(通帳)の余白等に自己の名義で虚偽の証明文を記載した場合、その記載部分が一個独立の公文書としての性質を有する限り、当該通帳自体の真偽にかかわらず虚偽公文書作成罪が成立する。
問題の所在(論点)
既存の文書(通帳)の余白等に虚偽の証明文を記載した場合、当該既存文書の真偽が虚偽公文書作成罪の成否に影響するか。
規範
虚偽公文書作成罪(刑法156条)における「文書」とは、必ずしも独立した1枚の用紙である必要はない。他人の名義で作成された既存の文書の余白等を利用して作成された場合であっても、その記載部分自体が作成者による一個独立の証明文としての意味内容を有するものであれば、同条の「文書」に該当する。この場合、台紙となる既存の文書が真正であるか偽造であるかは、罪の成立に影響しない。
事件番号: 昭和23(れ)1752 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
家庭用米穀配給通帳は各世帶毎に交付せられるものであつて右通帳における世帶主の氏名の記載はその通帳を特定するためには極めて重要な記載であつて、世帶主甲名儀の通帳と同乙名儀の通帳とは、たとえ通帳自體は同一物が利用せられ從つてその通帳の作成名儀者は同一であつても、全く別個の通帳と認めざるを得ない、されば原判決が前示被告人の所…
重要事実
被告人は食糧営団の販売所主任として、藤沢市発行名義の通帳(食糧配給通帳)の配達証明欄に、食糧配給の事実がないにもかかわらず、自己の名義をもって配給済みの旨を虚偽に記載(いわゆる無形偽造)した。弁護人は、当該通帳自体が真正なものでなければ本罪は成立しないと主張し、原審が通帳の真偽を判断しなかったことは違憲であるとして上告した。
あてはめ
本件において、被告人が通帳の配達証明欄に記入した「配給証明」は、食糧営団の販売所主任という公務員(当時は公務員とみなされていた)が自己の名義で作成すべき一個独立の文書としての性質を有する。通帳自体は、この独立した文書を作成するための「用紙」として利用されたにすぎない。したがって、その用紙(通帳)が真正なものであるか、あるいは偽造されたものであるかは、被告人が作成した証明書部分の虚偽公文書作成罪の成否を左右するものではない。よって、原審が通帳の真偽について明示的に判断しなかったとしても、罪の成立に影響しない事項である以上、何ら違法ではない。
結論
被告人の行為には虚偽公文書作成罪が成立し、台紙となった通帳の真偽を問わないとした原判断は正当である。
実務上の射程
文書の一部に独立した証明機能がある場合の「文書」の特定に関する射程を持つ。答案上は、既存の文書に追記する形の虚偽記載がなされた際、その追記部分が独立して「作成者・意思表示・継続性」を備える公文書といえるかを検討する際の根拠となる。
事件番号: 昭和24(れ)1603 / 裁判年月日: 昭和24年11月17日 / 結論: 棄却
所論「家庭用主食購入通帳」は、一個人の所有權の容体となるべき有体物であるから、刑條にいわゆる財物にあたるものといわなければならない。從つて該通帳が本件被告人の配給物資を騙取せんがための手段であり、道具であるに過ぎなかつたとしても、詐欺罪の成立を妨げる理由はない。されば原審が被告人の所爲に對し食糧緊急措置令第一〇又は刑法…
事件番号: 昭和31(あ)17 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
A法務社岸和田支局またはB地方法務新聞宇治山田支局各名義の各船舶登記証書を作成した場合においても、A法務社岸和田支局なる印の「社」およびB地方法務新聞宇治山田支局之印なる印の「新聞」という各文字の処を殊更に不鮮明に押捺し、各その形式外観によつて、一般人をしてA法務局岸和田支局またはB地方法務局宇治山田支局が権限により作…
事件番号: 昭和23(れ)1947 / 裁判年月日: 昭和24年4月5日 / 結論: 棄却
一 貯金局名儀を以て發行せられる郵便貯金通帳は、公法關係において作成せられるものであるか、私法關係において作成せられるものであるかの問題に拘りなく、右の公文書であつて所論のような私文書ではない。(昭和五年(れ)第二〇三三號同六年三月一一日言渡大審院判決参照)それは又刑法第一六二條にいわゆる有價證券でもない。 二 甲府郵…