一 遺言者の所有に属する特定の不動産の受遺者は、遺言執行者があるときでも、所有権に基づき、右不動産についてされた無効な抵当権に基づく担保権実行としての競売手続の排除を求めることができる。 二 遺言執行者がある場合には、相続人が遺贈の目的物についてした処分行為は無効である。 三 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であつても、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」に当たる。
一 遺言執行者がある場合と遺贈の目的物についての受遺者の第三者に対する権利行使 二 民法一〇一三条に違反してされた相続人の処分行為の効力 三 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前と民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」
民法1012条,民法1013条,民事執行法38条,民事執行法194条
判旨
遺言執行者がある場合、相続人による遺贈目的物の処分行為は絶対的に無効であり、受遺者は登記なくしてその無効を第三者に対抗できる。また「遺言執行者がある場合」には、指定された者が就職を承諾する前の期間も含まれる。
問題の所在(論点)
1. 遺言執行者がある場合に相続人が行った遺贈目的物の処分行為の効力。2. 受遺者は登記なくして上記処分行為の無効を第三者に対抗できるか。3. 民法1013条の「遺言執行者がある場合」に、就職承諾前の期間が含まれるか。
規範
1. 特定不動産の遺贈により、受遺者は遺言効力発生と同時に所有権を取得する。2. 民法1013条の趣旨は遺言の公正な実現を図る点にあるため、遺言執行者がある場合になされた相続人による処分行為は無効である。3. 受遺者は、当該処分行為の無効を登記なくして第三者に対抗できる。4. 同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、指定された者が就職を承諾する前の期間も包含する。
重要事実
遺言者が特定の不動産を被上告人らに遺贈する旨の遺言を残して死亡した。遺言執行者が指定されていたが、その就職承諾前の段階において、相続人が当該不動産を第三者に譲渡し、あるいは抵当権を設定してその登記を経由した。受遺者である被上告人らが、所有権に基づき、当該第三者らに対して登記の抹消を求めて提訴した事案である。
あてはめ
本件では遺言執行者が指定されており、民法1013条の「遺言執行者がある場合」に該当する。たとえ執行者が就職を承諾する前であっても、同条の趣旨である遺言の公正な実現を確保する必要性は同様に認められるため、相続人による譲渡や抵当権設定は無効と評価される。したがって、受遺者は遺言により取得した所有権に基づき、登記の有無にかかわらず当該処分行為の無効を主張して、第三者に対し登記抹消を請求することが認められる。
結論
相続人による処分行為は無効であり、受遺者は登記なくして第三者に対抗できる。また、遺言執行者の就職承諾前であっても同様である。
実務上の射程
相続人による「遺言の執行を妨げるべき行為」の絶対的無効を認めた重要な判例。民法改正(令和元年)後も、1013条2項で「無効」が明文化されたが、善意無過失の第三者保護規定(同3項)が新設されたため、現在の答案作成では改正法の適用関係に注意が必要である。ただし、就職承諾前の期間を含むとする解釈は、改正法下でも維持されるべき標準的な規範となる。
事件番号: 平成11(受)271 / 裁判年月日: 平成14年6月10日 / 結論: 棄却
「相続させる」趣旨の遺言による不動産の権利の取得については,登記なくして第三者に対抗することができる。