相続人は、相続の放棄をした場合には相続開始時にさかのぼつて相続開始がなかつたと同じ地位に立ち、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生ずべきものと解すべきであつて、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、右相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効である。
相続放棄と登記
民法939条1項(昭和37年法律40号による改正前のもの),民法939条,民法177条,民法909条
判旨
相続放棄の効力は絶対的であり、相続放棄をした者は相続開始時に遡って初から相続人とならなかったものとみなされるため、登記なくしてその効力を第三者に対抗できる。
問題の所在(論点)
相続放棄による承継の否定を、登記なくして第三者(相続債権者等)に対抗できるか。民法177条の適用の有無が問題となる。
規範
相続放棄(民法939条)がなされると、相続人は相続開始時に遡って相続開始がなかったのと同じ地位に置かれる。この効力は絶対的であるから、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずる。したがって、相続放棄による権利の変動は、民法177条の「対抗問題」には該当しない。
重要事実
被相続人Eの死亡により、Dを含む7名が相続人となった。Dを含む相続人5名は、熟慮期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述を行い受理された。その後、相続人の一人であるA(上告人)が単独所有権を取得したが、放棄者の一人であるDの債権者(被上告人)が、Dも共同相続したものとして代位による所有権保存登記をなし、Dの持分(9分の1)を仮差押えした。Aは、被上告人らに対し仮差押登記の抹消を求めた。
あてはめ
Dは適法に相続放棄の申述をして受理されており、法律上、初から相続人とならなかったものとみなされる。そうすると、Dが本件不動産の持分を取得した事実は遡及的に消滅するため、Dを共同相続人と仮定してなされた代位による所有権保存登記は実体に符合しない無効なものである。これに伴い、当該無効な持分を対象とした仮差押えも効力を生じない。相続放棄の効力は絶対的である以上、Aは登記を備えずとも、被上告人らに対し自己の権利を主張できる。
結論
相続放棄の効力は登記なくして第三者に対抗できるため、相続放棄により所有権を取得した者は、放棄者の持分を差し押さえた債権者に対し、当該登記の抹消を請求できる。
実務上の射程
法定相続分を超える権利取得について登記を要するとする民法899条の2第1項の例外となる重要判例である。相続放棄は「承継」ではなく「遡及的消滅」であるため、同項の適用を受けず、現在も登記なくして対抗できると解されている。
事件番号: 昭和36(オ)338 / 裁判年月日: 昭和39年3月6日 / 結論: 棄却
甲からその所有不動産の遺贈を受けた乙がその旨の所有権移転登記をしない間に、甲の相続人の一人である丙に対する債権者丁が、丙に代位して同人のために前記不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついでこれに対し強制競売の申立をなし、該申立が登記簿に記入された場合においては、丁は、民法第一七七条にいう第三者に該当する。