各自全部の履行義務を負う数人の債務者の全員又は一部の者が和議開始決定を受けた場合、債権の全額を和議債権として届け出た債権者は、債務者から一部弁済を受けても全部の満足を得ない限り、右債権全額について和議債権者としての権利を行使することができる。
各自全部の履行義務を負う数人の債務者の全員又は一部の者が和議開始決定を受けた場合に一部弁済を受けた和議債権者が権利を行使しうる範囲
和議法45条,破産法24条,破産法26条1項,破産法26条2項
判旨
数人の全部義務者のうち一部が倒産手続(和議・破産等)にある場合、債権者は手続開始時の債権全額を届出債権として権利行使でき、開始後に他の全部義務者から一部弁済を受けても、債権全額の満足を得ない限り、届出額全額に基づき配当等を受けることができる。
問題の所在(論点)
数人の全部義務者のうち一人が和議開始決定を受けた場合において、債権者が和議開始決定後に他の全部義務者から一部弁済を受けたとき、和議債務者に対して行使できる権利の額は、右弁済額を控除した残額に制限されるか。また、将来の求償権を有する全部義務者の代位権との関係をどう解すべきか。
規範
破産法24条(現行破産法104条1項、民事再生法86条1項)によれば、数人の全部義務者が破産宣告を受けたときは、債権者は破産宣告時の債権全額について権利を行使できる。この趣旨は、倒産手続外での一部弁済によって届出債権額が減縮すると、債権者が本来期待できた配当を十分に得られなくなるおそれがあるため、債権者の保護を図る点にある。したがって、一部弁済をした全部義務者が「債権者の権利を取得する」とする規定(旧法26条2項、現行法104条3項・4項)は、債権者が届出債権全部の満足を得てなお余剰がある場合に、その余剰について求償権者が配当を受けることを認める趣旨と解すべきである。
重要事実
債権者(被上告人)は、手形債務者である上告人に対し4000万円の手形金債権を有し、上告人の和議手続において右債権全額を届け出た。和議認可決定の確定後、上告人は和議条件に基づき320万円を支払った。一方で、本件手形の裏書人(全部義務者)である訴外会社も別途和議手続に入っており、被上告人は訴外会社から800万円の支払を受けた。上告人は、訴外会社による800万円の支払によって被上告人の和議債権額自体が減縮したと主張し、和議条件に基づく第1回支払額(元本10%の400万円)から既払分(320万円)に加えて右800万円の一部を控除すべきであると争った。
あてはめ
本件において、被上告人が和議開始決定時に有していた債権額は4000万円であり、これが届出債権額となる。開始決定後に全部義務者である訴外会社から800万円の弁済があったとしても、被上告人は依然として4000万円全額の満足を得ていない。旧破産法26条2項(和議法45条による準用)を「弁済により直ちに債権者の権利を代位取得する」と解すると、残債権を有する債権者の配当を害することになり妥当でない。したがって、被上告人は届出額である4000万円全額について権利行使を継続できるため、和議条件に基づく第1回支払分(4000万円の10%=400万円)を全額請求でき、そこから上告人自身の既払額320万円を控除した80万円の請求が認められる。
結論
債権者は、和議開始決定後に他の全部義務者から一部弁済を受けても、債権全部の満足を得ない限り、届出債権全額について和議債権者としての権利を行使できる。
実務上の射程
現行破産法104条1項および民事再生法86条1項(全部義務者の特則)の解釈を明示した重要判例である。答案上は、開始決定後の弁済が債権額を減縮させない「債権額固定の原則」の根拠として用いる。求償権者による代位(現行破産法104条3項・4項)についても、債権者が完済を受けない限り、求償権者の権利行使は劣後するという論理で使用する。
事件番号: 平成3(オ)491 / 裁判年月日: 平成7年1月20日 / 結論: 破棄差戻
連帯保証人の一人について和議認可決定が確定した場合に、和議開始決定後の弁済により右連帯保証人に対して求償権を取得した他の連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けたときに限り、右弁済による代位によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で右求償権を行使することができる。
事件番号: 平成12(受)1584 / 裁判年月日: 平成14年9月24日 / 結論: 破棄自判
債権の全額を破産債権として届け出た債権者は,債務者に対する破産宣告後に物上保証人から届出債権の弁済を受けても,その全部の満足を得ない限り,届出債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができる。