和議債権者が債務者に対して負担する債務を受働債権としてする相殺が和議法五条の準用する破産法一〇四条二号により効力を有しない場合は、和議手続から移行した破産手続において、右債務負担の原因が破産宣告の時より一年前に生じたことになるときであつても、右相殺は効力を有しない。
和議法五条の準用する破産法一〇四条二号により効力を有しない相殺と和議手続から移行した破産手続におけるその効力の有無
和議法5条,和議法6条,和議法9条1項,和議法10条,破産法98条,破産法104条2号
判旨
和議手続から破産手続へ移行した場合、和議手続において禁止される相殺は、たとえ債務負担の原因が破産宣告の1年以上前であっても、破産手続においても効力を有しない。
問題の所在(論点)
和議手続中に、支払停止等の事実を知りつつ債務を負担してなされた相殺が、その後の破産手続移行時に破産法104条2号但書の要件(破産宣告の1年以上前の原因)を満たす場合に有効となるか。
規範
和議から破産へ移行した場合、両手続を継続した一体のものとして把握すべきである。したがって、支払停止等を知って債務を負担したことが和議法5条(破産法104条2号準用)の相殺禁止規定に抵触する場合、その後の破産手続において同号但書の「破産宣告の1年前の原因」に該当するとしても、なお相殺は効力を有しない。これは、不当な債権回収による債権者間の公平・平等な満足の没却を防ぐためである。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者Aの支払停止及び和議開始申立を知りながら、Aから製作物供給を受ける契約を締結し債務を負担した。債権者はAに対する既存の売買代金債権を自働債権、当該製作物代金債務を受働債権として相殺を主張した。その後、Aの和議は廃止され破産宣告がなされたが、当該債務の負担原因(契約締結)は破産宣告の1年以上前であった。
あてはめ
本件相殺は、和議法5条により準用される破産法104条2号本文の禁止事由(支払停止等の知得後の債務負担)に該当し、和議手続において無効であった。和議と破産は一体として把握されるべきであり、後の破産手続で形式的に同号但書(1年以上前の原因)の期間要件を満たしても、一度否定された相殺の効力が復活することはない。相殺の担保的機能に対する信頼を保護すべき「取引の安全」の範囲外であるといえる。
結論
本件相殺は、破産手続においても効力を有さず無効である。よって、破産管財人(上告人)による製作物代金の支払請求は認められる。
実務上の射程
倒産手続間の連続性を認めた判例であり、民事再生法等においても同様の解釈がなされる。旧和議法の事案だが、現行破産法72条2項2号但書の解釈(再生手続等からの移行時の期間計算)においても、先行する手続での禁止を優先する趣旨として答案上活用できる。
事件番号: 昭和60(オ)589 / 裁判年月日: 昭和62年6月2日 / 結論: 棄却
各自全部の履行義務を負う数人の債務者の全員又は一部の者が和議開始決定を受けた場合、債権の全額を和議債権として届け出た債権者は、債務者から一部弁済を受けても全部の満足を得ない限り、右債権全額について和議債権者としての権利を行使することができる。