和議債権と和議債務者の和議債権者に対する債権とが和議認可決定確定前に相殺適状にあった場合には、和議債権者は、和議認可決定の確定により和議債権が和議条件に従って変更された後においても、右変更前の和議債権を自働債権として和議債務者の債権と相殺することができる。
和議認可決定の確定による和議債権の変更後に和議債権者が右変更前の和議債権を自働債権として右確定前に相殺適状にあった受働債権と相殺することの可否
和議法5条,和議法57条,破産法98条,破産法326条1項
判旨
和議債権と和議債務者の債権が和議認可決定確定前に相殺適状にあった場合、債権者は、和議認可決定の確定により和議債権が変更された後であっても、変更前の債権を自働債権として相殺できる。
問題の所在(論点)
和議認可決定の確定によって和議債権の内容が変更(権利の縮減や期限の猶予)された後において、和議債権者は、変更前の債権を自働債権として相殺することができるか。和議認可決定の効力と相殺の担保的機能の優劣が問題となる。
規範
和議法5条が破産法上の相殺権行使の規定を準用する趣旨は、相殺の担保的機能を保障し、互いに債権債務を有する当事者間の公平を図る点にある。和議手続では債権確定や清算が行われず相殺の機会が十分に保障されているとは言い難いため、認可決定の確定による実体法上の変更(和議法57条等)を優先させて相殺権を制限することは公平を欠く。したがって、認可決定確定前に相殺適状にあった場合には、和議債権者が相殺権を放棄したと認められる特段の事情がない限り、和議条件による変更前の債権を自働債権として相殺できる。
重要事実
和議債務者(被告)は、和議債権者(原告)に対し、平成元年成立の売買契約に基づく割賦代金債権(本件割賦代金債権)を有していた。一方で原告は、被告が平成3年に振り出した約束手形金債権を有していた。被告について平成4年に和議開始決定がなされ、平成5年に「元本50%免除・残部10年分割払」を条件とする和議認可決定が確定した。両債権は認可決定確定前に弁済期が到来し相殺適状にあったが、原告は認可決定確定後に、変更前の手形債権を自働債権として相殺する旨の意思表示をした。
あてはめ
本件において、原告の手形債権と被告の割賦代金債権は、いずれも和議認可決定の確定前に弁済期が到来しており、相殺適状にあった。また、原告が相殺権を放棄したと認めるべき事情も存在しない。そうであるならば、和議による権利変更の効力が生じた後であっても、相殺の担保的機能への期待を保護すべきであるから、原告は和議条件による変更前の手形債権全額を自働債権として、被告の債権と対当額で相殺することが認められる。被告が先行して変更後の条件に基づき弁済や相殺をしていたとしても、この結論は左右されない。
結論
和議債権者は、和議認可決定確定後であっても、確定前に相殺適状にあった変更前の和議債権を自働債権として相殺できる。
実務上の射程
倒産法における相殺権の担保的機能の重視を示す重要判例である。現行民事再生法92条1項の解釈においても、再生計画による権利変更の効力(同法177条1項)にかかわらず、再生手続前から相殺適状にあった債権については変更前の額で相殺できるとする実務の根拠となる。
事件番号: 昭和57(オ)246 / 裁判年月日: 昭和61年4月8日 / 結論: 破棄自判
和議債権者が債務者に対して負担する債務を受働債権としてする相殺が和議法五条の準用する破産法一〇四条二号により効力を有しない場合は、和議手続から移行した破産手続において、右債務負担の原因が破産宣告の時より一年前に生じたことになるときであつても、右相殺は効力を有しない。