債務の弁済は、必ずしも和議法第三二条第一項但書にいわゆる「通常ノ範囲ニ属セザル行為」にあたらない。
債務の弁済と和議法第三二条第一項但書。
和議法32条1項
判旨
債務の弁済は、和議法32条1項但書(当時)にいう「通常ノ範囲ニ属セザル行為」には当たらない。したがって、和議開始決定後の債務弁済は、管財人の同意を要する特別な行為とは解されない。
問題の所在(論点)
和議開始決定後になされた「債務の弁済」が、和議法32条1項但書(現行の民事再生法等における「通常の業務に属しない行為」に相当)にいう「通常ノ範囲ニ属セザル行為」に該当するか。
規範
「通常ノ範囲ニ属セザル行為」とは、債務者の営業ないし事業の目的、規模、態様等に照らし、日常的な業務遂行の範囲を逸脱する主観的・客観的な特別の行為を指す。既存の確定した債務の弁済は、本来債務者が履行すべき義務の履行であり、原則としてこの範囲に含まれる。
重要事実
債務者が和議手続開始決定を受けた後、特定の債権者に対して既存債務の弁済を行った。この弁済が、和議法32条1項但書に規定される「通常ノ範囲ニ属セザル行為」に該当し、管財人の同意がない限り無効(または不当)な行為となるかが争われた。なお、具体的な債務額や弁済の経緯などの詳細は判決文からは不明である。
あてはめ
債務の弁済は、債務の性質上当然に予定されている行為であり、履行期が到来した債務を支払うことは債務者の義務である。このような義務の履行は、特段の事情がない限り、債務者の事業継続に伴う日常的な経済活動の一環として理解される。したがって、本件における弁済行為も、事業の通常の運営範囲内にあるものと評価され、同条項の制限を受ける「通常ノ範囲ニ属セザル行為」には当たらないといえる。
結論
債務の弁済は「通常ノ範囲ニ属セザル行為」に当たらない。したがって、当該弁済は有効である。
実務上の射程
本判決は和議法下の判断であるが、現行の民事再生法41条1項の「通常の業務」の範囲を解釈する際にも、弁済が原則としてこれに含まれることを示す先例として機能する。ただし、不当な偏頗弁済や過大な支払が行われた場合には、否認権等の別個の規律が問題となり得る点に注意が必要である。
事件番号: 平成3(オ)491 / 裁判年月日: 平成7年1月20日 / 結論: 破棄差戻
連帯保証人の一人について和議認可決定が確定した場合に、和議開始決定後の弁済により右連帯保証人に対して求償権を取得した他の連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けたときに限り、右弁済による代位によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で右求償権を行使することができる。